トップチームの試合観戦中
神前直澄:赤間や江野のユースの先輩。FF一筋、十何年…の現FF選手会長。俊足サイドバック、プレスキックが武器のレフティ。
「優児って、十歳でサッカーはじめて、二年ちょっとでここ入ったってマジなの?」
ひとつ年上の神前直澄は、ひまさえあれば後輩に寄ってくる。
「ほんとだけどさー。直くん、二年に友だちいないの?」
「うるっ、うるせーな! 一年に紛れてたら、身長低いのが目立たないだろ」
「アホな理由だねー」
「先輩に向かってアホって言うな」
「先輩なの? 誰が?」
とたんに、ぐっと神前が黙り込む。
さっきから、そばで江野が怖い顔をしているのにも、赤間は気づいていた。
「なに、マコ?」
「サッカー始めて二年でプロの下部組織入りした天才だろうが何だろうが、先輩は先輩だろ。おまえよりはるかにサッカー歴も長い」
「それで俺より巧いっていうなら、もちろん尊敬くらいするけどね」
「尊敬なんてことば、おまえの辞書にはなさそーだけどな」
「直くん、するどい。俺、尊敬なんてしたことないんだ、実は」
「おまえさ、ユースの試合でも見に行ったら? うちの先輩たち、けっこうすごいんだぞ。尊敬しちゃうぞ」
「土日はたいてい、おなじときに試合やってるのに、どうやって試合見に行けって? ちなみに、トップは弱いね、ここ」
目の前の試合の光景を指さしたら、ぴしゃんとその手を江野にはたかれた。
「優児ッ」
「おまっ、おまえなあー、おもってても言うなよ。トップチームってのは、下部組織の選手にとってはあこがれなの。理屈じゃねーの」
「直くん、あのさ。ひとつ忠告しとくよ。プロになる気なら、トップを、ましてや弱いやつらを、あこがれなんておもわないこと。あこがれてる相手は超えられないよ。自分はなれないとおもうから、あこがれるんだろ?」
「…………」
神前が黙り込んだ。
江野はじろりと赤間をにらんでいる。
べつに間違ったことは言っていない。
それでも、江野は赤間の言うことすべてが気に入らないようだ。
「優児って、みんなが天才だ天才だって言うの、わかるな。こいつホントに中一のガキんちょか、っておもうもん」
「褒めてくれてありがと。せっかくあこがれるなら、せめて、その道じゃ世界一の人間にしとけば? 超えられなくても、日本一にくらいはなれるだろ」
「日本一、をこんな楽勝っぽく言うやつ、はじめて見た」
「楽勝だよ。なろうと、本気で決めたら、誰にでもなれる。いちばん、結果が遠いのはマコみたいなタイプだけどさ。まあ、マコには俺がついてるから、大丈夫」
「マコ? どうして? いちばん努力してるとおもうけど?」
「努力ってね、負けをすばらしいものだと思い込むためにやっているんだよ。辛いおもいをすればしたほど、つまらない結果にも意義を見出せる生きものなんだ、人間って」
神前があごを落とした。
そんな無茶苦茶な話は聞いたことがない、と顔全体で叫んでいる。