待ってる。
「でも、きっと、マコが本気で願えば、夢に現れるんじゃないかな。ただ、セックスするか、サッカーするか、マコ次第だね」
『っ……!』
江野の深層心理では、赤間とセックスはさほど結びつかないにちがいない。
セックスがしたいだけなら、夢の中でまで、赤間を引っ張り出すことはないのだ。
初恋の相手から、ハリウッドの女優まで、誰でも自由に夢見ることができる。
「夢で誰とやっても、べつに怒らないからね、好きにしていいよ。まあ、鈴木リンを夢に見ても、黙っといて欲しいけど」
『……優児。根に持ってるのか、アレを……?』
「さあね。──ついでに言えば、夢でくらい、マコも妻子がいるしあわせを味わうといいよ。もし、そのしあわせにハマって、夢から醒めたくなかったら、そっちが現実だっておもっちゃっても、いいから」
『そうだな』
ちょっと怒ったような低い声が返る。
『そういう現実を選んだ俺も、べつの世界にはいて、おまえはそれを夢でのぞき見たのかもな?』
「べつ、せかい……?」
『だけど、ここにいる俺は、おまえと生きることを選んだんだ。これが、俺の現実だ。会いたいし、独り寝はつらいし、苦しくないとは言わないが、それでも俺はおまえと結ばれていない現実なんかに行く気はない。じたばたして、だからこそよろこびもでかい、俺はそういう人生を味わいたいし、おまえにだって味わわせたいとおもってる』
「マコ……」
『俺が、何でもできるおまえにも、ままならない現実ってのを味わわせたくて引き込んだのが、この世界なんだ。そうおもってくれ。おまえが俺に選ばせたんじゃなく、俺がおまえに選ばせたんだ。たぶん、どっちだっておなじことだから、おまえはそうおもっていろ。この苦しい現実におまえひとりを残して、俺はどこにも行ったりしない!』
ぽろ、と涙がこぼれた。
泣いている赤間なんて見たくない、と江野は言っていたから、見せずに済んでほっとする。
「────やっぱり、今日のマコはちょっと変だな。いつもなら言わないようなことばっかり言ってる」
『気づいてるんだ』
「え?」
『帰ろうか、どうしようか、って迷って電話してきたんだろ? FFのファンが受け入れてくれるかどうかだけじゃなく、俺のところに戻ってもいいのか、っておまえはほんとうは迷ってる。ちがうか?』
「ん……そう」
『迷うのは、したい方を選ぶべきじゃない、って自制が働いてるからだ。そうだろ?』
「そ、……か。そうなんだろうな」
『わざわざマンFファンの恨みなんか買ってくることはない。俺の力になるから、なんて条件もべつにいらない。おまえは、おまえのためだけに帰ってきていいんだ。俺は、ちゃんと待ってる。ファンなんかどうでもいい、勝負なんかどうだっていいっていう、何でもできるくせにちっともやる気を出さない困ったチームメイトじゃなくて──』
一息おいて、江野は優児、とやさしく呼んだ。
深い愛の、にじんだ声──
『それでも俺のことは好きだって、柄にもなくじたばたしてる、いとしい恋人のおまえを、だ』
非常に長い、しかし「サイドストーリー」というとんでもない一品を読んで下さったことに、感謝しています。できれば、KFJ本編や赤間の恋の成就を描いた(18禁ですが)「ナミダ」もご覧ください。




