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サボテンとクリームコロッケ -二重らせん-  作者: 十七夜
1:ジュニアユース入り/中1
6/60

どこまでも、自由に。

「ぜったいに見捨てないって言うけど、それって、キスとかしちゃってもそうかな? やってみようか。どうなるか、賭ける、礼?」

「賭けになんて、ならない」

「どうして? 礼が賭けたのと、俺は逆に賭けるよ」

「──やったら、マコの反応がどうでも、優児は死ぬほど後悔するよ。後悔するってわかってること、優児がするはずがない。自分で、わかってるんでしょう?」


赤間は、にっこりと笑った。

礼はなるほど、よく自分を理解している、とおもう。

自分のきもちも何もかも、冗談にしようとしたことも、きっと見抜かれている。

それならそれで良かった。

欲しいのは、理解者などではないのだ。

だから、礼のことばもまなざしも、なにひとつ、赤間の心を動かしはしない。

どこまで行っても、礼は、赤間にとっては、江野の大切な仲間のひとりというだけ。

でも、それだって、親を含めた世界中のまるで無価値な人間たちに比べれば、ずっとずっと大切にすべきとくべつな人間だった。

礼がかなしいと、きっと江野が心配するから。

江野の心を痛めさせるものは、なるべく排除したい。

でも、何に心を痛めるかも、どれだけ心を痛めるかも、江野の自由なのだ。

その自由を制限する権利は、赤間にもなかった。

だから、どんなものでも、赤間は江野に好きなだけ選ばせる。

それが赤間の、江野に対する精いっぱいの愛し方だった。

自由に。

どこまでも、自由に。

赤間はせめて、その歩みの先に、自分にあげられる『喜び』を差し出すだけ。

それを選ぶかどうかは、江野次第。

選んでくれただけで、──そして少しでもうれしい顔をしてくれただけで、赤間はしあわせなきもちを味わえる。

それだけで、しあわせになれるのだ。

江野に、他には何も望みはしない。

望んでは、いけない。


「明日の、二年との練習試合、僕たちが勝てるといいね」

「勝てるし。礼には、点を取ってもらうよ」

「僕が?」

「そう。エースになれよ、礼。俺のパスがいちばん受けられるところに、いつもいろよ」


こく、とうなずいて、礼がうれしそうにほほえむ。

そして、自分は、江野の視線を背中に背負ってプレーする。

そうすれば嫌でも江野は気づくだろう。

認めざるを得ないはずだ。

赤間の動きが、最良で、最善で、唯一で、ぜったいだということを。

いくら認めまいとしても、わかるに決まっている。

チームを勝たせたのが、誰なのか。

どんなにムカつく相手だろうと、赤間優児がいなくては、彼の大事な仲間は勝利を手にはできないのだということを、思い知らせてやる。

心の奥で、必要だと、認めさせてやる……!

それは、『彼に』ではなく、『チームに』ではあるけれど。

それが赤間にできる、精いっぱい。

彼にとって、必要な人間になる、なんて。

そんな、甘いだけの、叶わない夢は見ない。

毒みたいな夢は、決して、見ない。

ふたりは、決して交わることは、ないのだから。



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