どこまでも、自由に。
「ぜったいに見捨てないって言うけど、それって、キスとかしちゃってもそうかな? やってみようか。どうなるか、賭ける、礼?」
「賭けになんて、ならない」
「どうして? 礼が賭けたのと、俺は逆に賭けるよ」
「──やったら、マコの反応がどうでも、優児は死ぬほど後悔するよ。後悔するってわかってること、優児がするはずがない。自分で、わかってるんでしょう?」
赤間は、にっこりと笑った。
礼はなるほど、よく自分を理解している、とおもう。
自分のきもちも何もかも、冗談にしようとしたことも、きっと見抜かれている。
それならそれで良かった。
欲しいのは、理解者などではないのだ。
だから、礼のことばもまなざしも、なにひとつ、赤間の心を動かしはしない。
どこまで行っても、礼は、赤間にとっては、江野の大切な仲間のひとりというだけ。
でも、それだって、親を含めた世界中のまるで無価値な人間たちに比べれば、ずっとずっと大切にすべきとくべつな人間だった。
礼がかなしいと、きっと江野が心配するから。
江野の心を痛めさせるものは、なるべく排除したい。
でも、何に心を痛めるかも、どれだけ心を痛めるかも、江野の自由なのだ。
その自由を制限する権利は、赤間にもなかった。
だから、どんなものでも、赤間は江野に好きなだけ選ばせる。
それが赤間の、江野に対する精いっぱいの愛し方だった。
自由に。
どこまでも、自由に。
赤間はせめて、その歩みの先に、自分にあげられる『喜び』を差し出すだけ。
それを選ぶかどうかは、江野次第。
選んでくれただけで、──そして少しでもうれしい顔をしてくれただけで、赤間はしあわせなきもちを味わえる。
それだけで、しあわせになれるのだ。
江野に、他には何も望みはしない。
望んでは、いけない。
「明日の、二年との練習試合、僕たちが勝てるといいね」
「勝てるし。礼には、点を取ってもらうよ」
「僕が?」
「そう。エースになれよ、礼。俺のパスがいちばん受けられるところに、いつもいろよ」
こく、とうなずいて、礼がうれしそうにほほえむ。
そして、自分は、江野の視線を背中に背負ってプレーする。
そうすれば嫌でも江野は気づくだろう。
認めざるを得ないはずだ。
赤間の動きが、最良で、最善で、唯一で、ぜったいだということを。
いくら認めまいとしても、わかるに決まっている。
チームを勝たせたのが、誰なのか。
どんなにムカつく相手だろうと、赤間優児がいなくては、彼の大事な仲間は勝利を手にはできないのだということを、思い知らせてやる。
心の奥で、必要だと、認めさせてやる……!
それは、『彼に』ではなく、『チームに』ではあるけれど。
それが赤間にできる、精いっぱい。
彼にとって、必要な人間になる、なんて。
そんな、甘いだけの、叶わない夢は見ない。
毒みたいな夢は、決して、見ない。
ふたりは、決して交わることは、ないのだから。