都合のいい夢
「あきれてる?」
『あきれてない。次元がちがうな、っておもっただけだ』
「でも、マコは俺のことも仲間にしてくれたよ。だから、俺は、マコのところに戻る。マコのそばで、マコの力になるから、待ってて?」
『──優児』
「え?」
『キスしたくてたまらなくなるから、そんな声は出すな。……というか。おまえはほんとうに俺の恋人なんだよな? 実は、俺の都合のいい夢なんじゃないだろうな?』
「……夢の方がいい?」
『バカ言わないでくれ。おまえはあいしてるって言ってくれた。言ってくれたよな?』
「…………」
『答えてくれないのか、優児』
赤間は、前髪を掻き上げた。
きつく目をつむる。
「ふふっ。ごめん。ちょっと、こないだ見た夢を、思い出しちゃって」
『夢──?』
「しあわせな、夢だった。マコがちっちゃい子をうれしそうに抱いてて。横にはきれいな奥さんがいて。俺はそれを見て、ああやっぱりマコにはこういうのが似合うなあ。あいしてるって言わなくて良かったなあ……っておもっ──」
『優児っ』
「おもったん、だけどさ。その瞬間に、ちがうな、っておもって。俺はマコに告白しちゃって、マコは俺を選んでくれて……だからマコがあんなふうにしあわせを味わうことはもうないんだ、って。ああこれは夢か、って。……もっと見てたかったのに、そう気づいたとたん、夢から醒めちゃった」
『優児──』
「もし、あのとき、あっちが現実だとおもっていたら、どうなったんだろう。もしかしたら、マコの恋人だっていう、自分にとって都合のいい夢の方を、俺は現実だって信じて、住み着いちゃってるだけなんじゃないのかな?」
『…………俺も』
「マコ?」
『何年、前か──パボ・レアルに居たころな。頻繁に、おまえの夢を見たことがある』
「俺の……夢なんて、マコが見たの?」
『なぜかいつも、おまえといっしょに試合に出てる夢で──俺もおもった。俺がいっしょに試合に出ているのは、鈴木のはずだ。優児がいるはずがない。これは夢だ、って。そうおもうと、俺も、おまえがいないという現実に戻ってきた。でも、おまえがいて、手を差し伸べてくれる夢の方が、ずっと居心地が良かった。そっちが現実だったら、とおもったし。ときどき、優児がいる方が現実だと、錯覚しそうにもなった』
「……知らなかったな」
『当然だ。言ってないからな。でも、居心地がいい方じゃなく、いつだって、苦しい方が現実なんだ。もしかしたら、苦しい方しか、現実だとおもえないだけかもしれないけど────どっちが夢でも、両方とも夢でも、いいじゃないか』
「マコ?」
『おまえが、居心地が良くてただそれだけの世界より、苦しくても、その先のよろこびまで味わえる世界を選んでるんだ。だから、それがおまえの現実なんだろ? こっちが、現実の方がいいからだろ?』
「マコ──」
はあ、と電話の向こうで妙に色っぽいため息が聞こえた。
『……くそ。目の前におまえがいないっていうのは、ほんとうにキツイな。夢の中でもいいから、会いに来てくれ、優児。夢の中でも、おまえがそばにいるはずない、って気づくまでは抱き合っていられるんだろ?』
「ふふ……そうだろうけど。俺、マコが眠ってるとき、まだ夕飯とか食べてるくらいなんだよね」
『──そういや、そうだな』




