ファンの恨み
「まあね、俺が勝負にこだわってる試合なんて、あんまりないし。映像が見られるのなんて、そのくらいなのかな」
『──あのときは、曽根さんたちのために、本気を出してたのか?』
「妬ける?」
『や、きは……しないけどな』
「そっか。あのころはまだ寮暮らしじゃなかったから、俺がその部屋に毎晩のように入り浸ってたの、マコは知らないんだっけ」
『おっ……おまっ!』
「一樹と大樹は、俺をでろでろに甘やかしてくれててさ。あのひとたちが欲しいもの、ひとつくらいはあげたくて、ちょっと本気を出したんだ」
重い沈黙が、返ってくる。
「言っとくけど、マコとつき合いはじめては、寝てないよ。ふたりとも、もうちゃんと、パートナーがいるしね」
『……どうでもいいっ』
「怒らないで。ふたりとも、俺が好きなのはマコだってはじめっから知ってたし。アニキたちがいなかったら、俺はとっくに、サッカーだってやめてたかもしれないんだから」
『そう、なのか……?』
「うん。最近、ひとりで寝てるから、よく昔のこと思い出すんだけど。マコに冷たくされてるとき、アニキたちがあいしてくれたから、俺は枯れて消えちゃわずに済んだんだ」
『優児……』
「ねえ、マコ、そっちでいつか、うちのチームの試合、放送したりする? マコに、今の、本気の俺を見せてあげるよ。……ああ、そうだ。次の次、相手のホームでマンFとの対戦がある。本気出すには、おもしろい相手だよね?」
『──首位チームだろ?』
「ふふっ。うちに負けて、首位陥落……したら、恨まれちゃうだろうなー、俺。世界的人気を誇るチームのファンの恨みを買ったら、もう、FFファンの恨みなんか目じゃないとおもわない?」
『…………勝てるのか?』
「事前に少し、監督やディフェンダーと話しておけばね。いくつか弱点は見つけてあるし。大樹にケガさせてくれたムカつくディフェンダーがいるから、そいつを退場に追い込んでやろうかな」
『おい……』
「退場はダメ? じゃあ、ハンドでPK献上くらいにしといてやるか」
『優児!』
「わーかったよ。じゃあ、股抜きでゴール奪ってくやしがらせるくらいで手を打つから。それなら怒らない?」
『……ほんとにできたら、こわいぞ、おまえ』
「ふーん? でも、できるよ。俺を誰だとおもってるの、マコ。この世はね、じたばたしないやつのおもいどおりにいくようにできてるんだから」
じたばたしててわるかったな、と江野が小さく独り言ちる。
「ピッチの上じゃ、笑ってるだけで、相手が勝手にびびってくれる。あとは、閃きをキャッチしながら動けばいいだけ」
『閃き、って──』
「サッカーはつねに状況が動くから、頭で考えてちゃ状況に取り残される。頭じゃぜったい考えつかないようなプレーを直感だけでやったときに、まるで自分だけ先回りしていたように、後からおいしい状況がやってくるんだ。見てる方も、何でそこにいた?っておもうんだろうけど、俺にだってわからないんだよ。頭じゃわからないことができるから、サッカーはおもしろいんだ」
『は、あ……』
「まあ、マコとはちがう楽しみ方をしてるってことはわかってる。それでも、仲間になったり、チームメイトとしていっしょに戦ったりできちゃうところも、おもしろいとおもうよ」
『………………まあ、そうだな』




