極めつけの、バカな選択
「一樹に言われたことを、こないだ思い出したんだけどね」
『曽根さんに?』
「俺は、虎が狼の群れに入っているようなもの、だってさ。マコにとっては当然、群れで仕留めるべき獲物を、ひとりで仕留めようとするとんでもないやつ、だったんだろうね」
『虎が狼の群れに、か。そこまでぶっ飛んで異質ではなかったとおもうけどな』
「そう?」
『でも、虎は当たってるかもしれない。俺からすると勝手気ままでわけがわからないけど、つい、見とれてしまうかっこ良さがあって──』
「マコ、ちょっと会わない間に、妄想広げてない? 実物見たら、こんなていどだったかーってがっかりするんじゃないの?」
『俺はずっと、おまえの評価は最小限にしてたぞ。それでも、顔見れば、悔しくなるくらいには、おまえは文句なくかっこいい男だった』
「どうしたの、そんな甘いセリフばっかり言ってくれて。俺を、恋しがらせて、また帰国させようとしてるの?」
『ちがう!』
「そ? 帰りたいけど、今は終盤戦だから、ちょっとムリ。あのとき、帰国させてくれたら、最後までちゃんと働くって監督に約束しちゃったからね」
『恋人に会いたいから帰国する、なんてまるっきりの私用で、監督から許可を引き出せる選手なんて、おまえだけだろうな』
「人間同士だもん。メリットがあれば誰とだって交渉くらいできるよ。言っとくけど、騙しても脅してもないし、約束はちゃんと守ってるよ」
『選手はふつう、干されたらどうしようとか、おもうものだけどな?』
「干してくれる方が楽だなー。働かないで済むし。まあ、俺を働かせたいのなら、交渉にのるしかないよね。ちなみに、俺も、結果よりもメンツにこだわるようなバカとは交渉しないよ。バカのために働く気もないし」
電話口で、ため息が聞こえた。
『優児。おまえほんとは、極めつけのバカは俺だとおもってるんじゃないのか?』
「ふ、ふふふっ。バカだとはおもってないけど、言われてみれば、俺がバカだとおもうことを端からやってるのがマコかもね」
『……やっぱりか』
「極めつけは、俺とつき合ったことだよ。──でも、バカなことをするマコが、俺はいとしくてね。バカな選択も、マコがすればいとしいよ。直くんだったら、バカはおまえの方だー、って言いそう。それって、当たってるよね?」
『…………いくら直くんでも、恋人をバカ呼ばわりされたら、殴ってやる』
「……恋人」
『優児』
「ん?」
『わがまま言う気はないけど──会いたい、とおもってるのは事実だ。もう一ヶ月も待てばいいことはわかってるけどな、俺は、どこかじゃなく、ここに、帰ってきて欲しい』
「……マコがそんなこと言うなんて、びっくりだな」
『言、わない気だったんだけどな。──理由は、おまえとセックスしたいからじゃなく、おまえといっしょのピッチに立ちたいからだと、おもっといてくれるか?』
きっと、理由の八割くらいは、セックスがしたいから、なのだろう。
べつに、赤間とのセックスを恋しがるのは、江野が性欲旺盛だからなわけではない。
虜のように欲しがられることには、むしろ、赤間は慣れっこだ。
この五ヶ月のうちに会ったのは、たったの一夜きり。
赤間だって爆発しそうなほど、江野が恋しかった。
がまんを強いられているからこそ、欲しいきもちがあとからあとから積もっていく。
毎晩自分で触れて慰めても、焼け石に水と言っていい。
きっと、江野もおなじか、それ以上の恋しさに耐えているのだろう。
「そうだね。あんなふうに言われたら、おなじピッチに立って、勝つために戦うところをマコに見せたいとおもうよ」




