虎と狼の群れ
「ふふっ。大樹は初めて会ったときから、俺のことかわいいって抱きしめて、撫でまくってた。そのときから、大樹には俺が犬か猫に見えてるんじゃないの?」
『いや、スッて立ち上がっただけでびびって誰も近寄れなくなる、虎か何か。かーっこいいからなー、おまえ。そのくせ、猫みたいに甘えたがり。かわいーったらねーよ。もう、殺人的!』
『勝手に死んでろ、バカ。優児。江野誠はどっちかというと、犬科だろ? おまえは群れなんてもんに興味はねーんだけど、そこにあるあったかいものにだけは惹かれるんだな』
「そうだね」
『想像すると、ちょっと笑えないか。虎が狼の群れに入ってって、何かこいつ俺たちとちがうぞっておもいながらも、ボスが群れの一員として扱おうとしてるっていう。そうおもうと、ボスの苦労が忍ばれる。おまえも違和感ばりばりでつらいだろうけど、受け入れてる方は神業かもしれねーな』
「神業、か…………」
そうかもしれない、と赤間は微笑した。
江野にとっての赤間は、仲間のひとり──つまり、群れの一員にすぎない。
でも、本来は群れになどいるべきではない赤間さえ、一員として受け入れるというのは、とてつもないことなのだ、きっと。
誰もが、赤間のことを、自分たちとはちがう存在として見ている。
それでも、江野は、赤間を自分たちの仲間にした。
そこにはまちがいなく、愛がある。
同質だからとか、自然だからとか、そんな理由などでは決して湧くはずのない愛で、江野は赤間を受け入れつづけていたのだ。
プログラムに従って、女を選び、子どもをつくる──
それもまちがいなくひとつのとくべつな愛の形ではあるけれど、『とくべつな愛』は、それだけではないのかもしれない。
赤間が、女になれば手に入るとおもっている以上のものを、自分はとっくに江野から与えられていたのかも……?
そうおもうと、胸が熱くなった。
こんなふうにしあわせなきもちになるのは、久しぶりだとおもう。
「ありがと、一樹。ちょっと、元気出た。今シーズンの終わりまでは、ここで、マコの仲間たちのために戦っていられそう」
『優児、次節、うちと対戦だからな。そっち帰るから、待ってろよ。おまえが俺たちに懐いてるってバレバレなのは、都合がいーな。公衆の面前でいくらいちゃついてても、許される』
『大樹。いくらっても、キスまでするなよ。優児の移籍を変に勘繰られる』
『勘繰らせりゃいーだろ。優児ひとり、FFを捨ててったなんて責められんのはかわいそーだ。FFより俺を取った、ならいっしょに悪モノだろ?』
「ダメだよ。いつかFFに帰りたいって人間を、悪モノにしてどうするの。でも、ありがと、大樹。顔見たら、きっとぶつかってっちゃうから、受け止めてね」
『ああ、もちろんだ。ピッチでも、遊びまくろーな。あいしてるぞ、優児』
「ふふっ。俺にそんなこと言ってないで、今夜は一樹をあいしてあげなよ。きっといっぱい、サービスしてくれるよ?」
『優児!』
一樹がよけいなことを言うな、とばかりに声を上げる。
もういくつか会話をして、赤間は電話を切った。
話した通り、赤間は大樹のいる横浜グラニに、シーズン終了と同時に、移籍を決めた。
FFを見捨て、ただで出て行った裏切り者、とのそしりを赤間は平然と受け入れた。
そして、FFにひとり残った神前の元へ、江野がパボ・レアルからのレンタル復帰を決断したのも、赤間がまさに予期したとおりだった。
江野は、FFの選手として、身勝手な移籍をした赤間のことは許せない、という態度を貫いた。
けれどその冬も、初蹴りから自主トレまでずっと、江野は赤間を含めた同期の仲間五人とともに過ごす習慣を変えることはなかった。
礼に、仲間じゃなくなっても友だちだ、と言ったように、赤間を見捨てることも、切り捨てることも決してなかったのだ。




