『やりたくない』
『どういう意味だ?』
「俺が直くんひとりをFFに残して出て行ったら、あいつはきっと怒って、俺のかわりにFFに戻るから」
『はあー? なんじゃそりゃ!』
『だったら、優児がひとりFFに残されたら? 滝田さんが戻そうとするまでもなく、自分で戻ってきてくれるんじゃないのか?』
「…………俺のために? 帰ってこないよ。直くんひとりじゃ背負えないっておもうから、戻ってくるんだ。それで直くんひとりに背負わせた俺を怒ることはあっても、俺を支えてやらなきゃ、なんてマコは考えない」
『支え……か。そりゃ、おまえはいっつもへーぜんと笑ってるから──』
「支えるどころか、頼みもしないのに横から助けられてばっかりでさ。もうさんざん、自分の無力さを思い知っちゃってるからね。俺にあるとしたら、『できるのにやらない』の一択だって……そのとおりなんだけどさ。どっちみち、マコを怒らせる」
『やりたくない、って選択肢は許さないのか──?』
一樹が、めずらしく怒った声を出す。
赤間はおもわず肩をすくめた。
「そうだよ。マコには、やりたくない、なんて選択肢はないんだ。できることがあるならマコはやるから。やりたいか、やりたくないかは、マコの判断基準じゃない。できるか、できないか、なんだ。できないことまでやれとはぜったいに言わないけど、できるくせにやらないことをマコは何より憎んでる。だからたぶん、この世でいちばんマコに嫌われてるのは、この俺だよ」
『そっ……な、──おい。おまえ、なんだって、そんな…………?』
うめくように言った一樹がどんな顔をしているか、想像がつく。
あきれより、きっと困った顔にちがいない。
「そんなやつがいいのか、って? 俺にはぜったいにできない生き方、だからじゃないかなー」
『優児……』
「前に言ったことあるよね? マコは自分だけ上に行きたいわけじゃなくて、みんなで少しでも上に行くことを考える。可能なかぎり、他人に手を差し伸べる。いつも、下とか後ろばかり振り返ってる。自分より上や先を行くやつには、目もくれないよ」
『それはさー、ちがうんじゃねーの』
のんびりとした大樹の声が返ってくる。
「ちがうって?」
『助けてやんなきゃならねーやつばかり目に入るやつのきもちは、俺たち、ちょっとだけわかるぞ』
「そう?」
『そうだ。心外かもしれねーけど、おまえだってそのうちのひとりだし。な、一樹?』
『まあ、俺たちもいっぱい助けてもらってるけどな。でもやっぱり、俺たちはおまえの兄貴のつもりだから』
「……そうだね」
『でもな、俺たちにもひとりだけ、振り返って手を差し伸べようなんて考えなくてすむやつがいるんだ』
『──誰だとおもうよ、優児?』
大樹のちょっと笑った声。
赤間は、意識して息を吸った。




