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サボテンとクリームコロッケ -二重らせん-  作者: 十七夜
1:ジュニアユース入り/中1
5/60

嫌いになりたい

「マコこそ、俺なんて消えてくれっておもってるんじゃないかな」

「マコはそんなこと、おもわないよ」

「──断言?」

「できるよ。だって、マコだもん。マコは、そんなことおもわない。だから、優児のことも何度だって叱るの。マコは、ぜったいに見捨てたりしないよ。いつだって、誰のことももっと好きになりたいっておもってるし、誰もがもっとうまく行くようにって、そればかり考えてるひとだもの」

「……そうだね」


ただし、誰のことも、なのだ。

赤間ひとりをとくべつに想ってくれることはない。

とくべつに、想わせてはいけない。

だから、江野のいない世界に行きたかった。

江野と、赤間は、永遠に相容れない、重ならない、交わらない、らせんの関係にある。

それならば、離れるなど、無意味だ。

そう、離れることはできないし、遠ざけることも、またできない。

そういう相手なのだと、心のどこかで、赤間は痛いほど直感していた。

そしてまた、江野自身も、赤間を自分の中から閉め出すことは決してないという──

だからこそ、ふたりはらせんなのかもしれなかった。

ぜったいに見捨てない──それもまた、他人のありのままを受け入れるひとつの形なのかもしれない、とおもう。

ただ、江野は、現状維持を認めないというだけで。

誰でももっと良くなると、頑固に、それを信じつづけている人間。

自分がどこから来たかも、忘れてしまっているくせに。

自分が何のために生まれてきたかなんて、考えもしないくせに。

それでも、赤間とはまったくちがう凡人の視点で、おなじ真理を、どこまでもどこまでも追い求めるのが、江野誠という人間──

彼だけが、赤間と対極を行くことができる。

もっとも自分を知り、自分を優先する赤間と、みごとなほどに対極をなす人間が江野誠だった。

彼の頑固さだけが、真理を知る赤間には選ぶよしもない道を行き、交わることなく二重らせんを描くことができるのだ。

そんな相手が、欲しかった。

どこまでも、追う価値のある相手がいれば、人生はきっとおもしろく、生きる甲斐があるはずだ、と。

江野に出会うまでの赤間の人生は、つまらないゲームの中にいるようなものだったから。

なにもかも、うまくいく。

なにもかも、おもいのまま。

だから、そうではないものが欲しかった。

そうではないものがひとつでもあれば、ここにわざわざ生まれてきた意味もわかる、そうおもった。

けれど──

まったくの想定外だ。

赤間優児という、完璧だった人間の中に、こんな想いが植えつけられてしまうだなんて。


マコが、好き────


マコが好き。

百万回くり返したって、言い尽くせなくて、胸を掻きむしりたくなるほどに。

誰かに許しを乞う気はないので、許されようが許されまいが、そんなことは構わない。

伝える気もないから、江野が許してくれなくたって、構わないのだ。

でも、自分が許せないのは、どうすればいいのだろう。

許してやれば楽になれるとわかっている。

なのに、江野に気づかれるならいっそ死んだほうがましだとおもうほど、自分で自分が許せない。

こんな浅ましく汚らわしい想いを、江野に悟らせるわけにはいかない。

嫌な顔をされたら、きっと、生まれてきたことさえ後悔する。

一生、追いつづける相手に、疎まれ、憎まれ、嫌われて、それでも追わずにはいられないなんて、そんなのは地獄だ。

いっそ、嫌いになりたい。

嫌いに、なりたい。

そうすれば、楽になれる。

わかっている。

わかっているのに──

自分の心が、ままならない。

できることは、笑顔をつくって、ひとを欺くことだけ。



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