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サボテンとクリームコロッケ -二重らせん-  作者: 十七夜
11:降格危機/プロ三年目
49/60

最善と悲鳴

「っとに、めんどくせーったら」


神前の本音がどこにあろうが、赤間にはどうだっていい。

チームが降格しようが、今すぐクラブが潰れようが、赤間自身は心底どうだっていいのだ。

でも、どうでもよくないという人間が、赤間には大切だった。

たったそれだけのことで、問題はややこしくこんがらがって、手に負えなくなってくる。


赤間の本音は、今すぐにでも、クラブを去りたい。

そして、自分を甘やかしてくれるひとのそばに、行きたかった。

最良ではないけれど、それが赤間の心からの願いだ。

だから、ひらひらと契約延長の要請をかわしつづけている。

赤間に契約延長させたい滝田は、江野のレンタルからの復帰をちらつかせていた。

甘いエサだ──

けれど、そんなものに乗る赤間ではない。

逆に言えば、そのせいで、契約延長にも赤間は踏み切れなくなってしまった。

本音ではもちろん、赤間は江野に帰ってきて欲しい。

江野がいっしょなら、FFにいたって構わない気も、どこかでしている。

それも、最善ではないけれど、願いのひとつは叶う道だ。

ただ、帰りたくない江野の本音もわかっている。

今季の江野は、水を得た魚、と言ってもいいくらいにパボ・レアルの中で生きている。

サッカー選手としての江野のためには、あのままあそこにいさせてやった方がぜったいにいい。

しかし江野に恋する赤間の本音としては、江野をあそこには置いておきたくない、だった。

一刻も早く、ここに戻さなくては──

今季が終われば江野のレンタル期間は切れ、おそらくは完全移籍してしまう。

そしたら江野は二度と、FFの一員に戻ることはないだろう。

もちろん、それでも、おなじFFの下部組織で育った同期の仲間だという事実が消えるわけではない。

けれど、それは、常にそばにいられる理由にはなりえないのだ。

江野を取り戻したい、と赤間はおもう。

ただ、そのおもいの出所がどこかもわかっているので、赤間には開きなおって選ぶことなどできなかった。

選べば、選んだ赤間を江野は許さないだろう。

せめて嫌われたくはないと、心が叫ぶ。

何より、それは、江野の自由を妨げないという、自分自身の愛のありかたを完全に裏切ってしまうやり方だ。

自由を奪えば、もう二度と、江野の前では笑えなくなる。

赤間には、自分の存在さえ、許せなくなるにちがいない。

FFのためには、神前を残さなくてはならないことも、わかっていた。

とはいえ、神前ひとりには到底任せられない。

あんな顔をしているようでは、赤間がいなくなったとたん、くしゃりと潰れてしまうに決まっている。

潰れるのはまったくもって構わないが、曽根兄弟の大事なものをいっしょに潰させるわけにはいかなかった。

最善は、赤間と神前が、ここに残ることなのだろう。

神前を残すことを条件とすれば、それで交換条件は成立し、滝田にも、江野を無理やり回収する必要性などなくなるはずだ。

ただ────

苦しかった。

もう限界だと、泣き言を言ってしまいたい。

礼ひとりの慰めなどでは、癒すことはおろか、もう誤魔化すこともできなかった。

ひとり、居場所を見つけて生き生きしている江野さえ、憎らしくおもえるほどに──


「大樹……、一樹──!」


まるで、呼んだ声が聞こえたように、その晩、赤間の携帯が鳴った。



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