KFJ 第36節の一件
「作戦名はKFJ!」で、主人公神前が語っていた赤間の移籍前夜です。本編であるKFJを読まれていない方は、お時間がありましたら、ぜひぜひ!
「いいから、おまえの好きにしろ」
うつむいて目をつむった神前の声は震えていた。
死ぬほど無理をして、そのことばを言っているのだとわかる。
本音は、ひとりにしないでくれ、なのだろう。
本人は気づいているのかいないのか知らないが、赤間は中学生のころから気づいていた。
彼が、何かにつけていっこ下の後輩たちに寄ってくる理由を。
自分がどんなに悪態をついても、それでもそばにやってくる。
とっくにハタチを過ぎているというのに、未だに恋人のひとりも作らず、童貞でいる。
何よりもサッカーが大切で、FFが大切で──
だからこそ、天才と呼ばれる後輩赤間優児に、あこがれと執着を抱いていた。
恋、の方が話は百倍単純だ。
でも、慕うきもちは恋愛感情ではないから、赤間も振る、という手段を取れなかった。
赤間にとって、こんなやっかいな相手はいない。
自分がどんな目で赤間を見ているか自覚がないから、ため息をつかれる理由もわからないのだろう。
「あのさー。直くんひとりに任せたら、ここ、あっという間に沈没しちゃうとおもうんだよね」
「ぐっ…………な、何とかする!」
「直くんの何とかする、を俺が信用するとおもってんの?」
「だっておまえは、ここがどうなってもいいんだろ!?」
「うん。あー、だから、今にも降格しそうなのに俺は本気も出さずに手を抜いてるんだー、とかおもってる?」
「──いや」
堅い顔で、首を振る。
神前は、ふしぎとひとの真偽を見誤ることはない。
だからなおさらやっかいなのだと、赤間はもうひとつため息をついた。
「……好きにしろ、か。言われなくてもそうするよ。直くんは、自分の売られる先でも心配してたら? まあ、滝田のオヤジなら、いちばんマシな移籍先をあてがうとはおもうけどね」
「おまえ──曽根さんたちに何か言われてるから、ここにいるんだろ?」
「何か? っていうか、直くんは、何て言われたのさ、アニキたちに?」
カマをかければ、神前が視線を逸らした。
「ゆ、優児を頼りにはするな、って」
「へー。俺を頼りにするな、ねぇ? つまり、直くんの本音は、俺を頼りたいわけだ?」
ぐっ、と神前がこぶしをにぎる。
赤間はぐしゃぐしゃと後ろ髪を掻き混ぜた。
「まあいいよ。俺が直くんの言うことなんか聞くわけないだろ。せめて、本音を隠せるようになってから出直して来なよ」
怒りと羞恥が入り混じった目でにらんで、神前はばっと背中を向けると駆け去った。




