壊れたプログラム
涙が、にじむ。
他人がどこにいて、誰を選ぼうが、赤間は心の底からどうでもいい。
例え、妹に恋人ができようが、大樹や一樹が結婚しようが、赤間はすこしも構わなかった。
けれど、相手が江野だと、こうも胸が痛む。
胸が痛むのは、なぜなのか。
どうして、こんなにも、江野だけがとくべつなのか──
七年経っても、未だに、赤間にはなぜなのかわからない。
自分の人生に、なぜ、こんな痛みを生む存在が必要なのだろう。
もたらすのは痛みだけではないけれど。
でも、こんなに痛いのなら、いっそ要らないとおもう。
おもうのに、消せなかった。
消せないのだ、決して──
何度も、何度も、手放そうとした想いなのに、一ミリたりとも、その手を離れて行ってはくれなかった。
江野への想いを失えば、まるで、赤間優児そのものが、消えてなくなってしまうかのように。
彼への想いだけは、小揺るぎもしない。
残酷なところをいくら探しても、滑稽なところをどれだけ見つけても、それでも、胸にはいとしさが湧いてくる。
まるで、壊れたプログラムのように。
江野のすべてが、赤間にはいとおしく、愛さずにはいられなかった。
「離れるなら、消えたい。この世から、消えてしまいたい……!」
『いつでも会えるから、優児』
「ひとりで生きるのは、嫌だ。嫌なのに…………俺は、他の人間なんて、いらないんだ」
『知ってるよ。とくべつなのは、マコだけ。でしょう?』
「──どこかに、べつのとくべつがいるって言う? まだ出会ってないだけだ、って。いつかの、『三人目』みたいに?」
『言わない。そんなもの、いないわ。わかってる……優児に必要なのは、マコだけ。慰めてくれるひとはいても、誰も、マコの代わりにはなれない』
優児、と礼が静かに呼んだ。
相手ゴールを見ていた、エースストライカー時代の礼のまなざしが、ふとよみがえる。
『優児は信じられないかもしれないけど、わたしは信じてる。優児は、いつかマコと結ばれる。いつかきっと、マコは優児を選ぶわ』
「ありえない!」
『ありえない、なんて思い込みなんでしょう?』
ぴしゃり、と言い返されてしまう。
赤間は壁に向かって目を見張った。
『だから、わたしは信じる。優児は、マコと結ばれるために生まれてきたんだ、って。すべての障害は、何でもできちゃう優児が、恋を成就させたよろこびを感じるために、不可欠なものなんだわ。そのくらい苦しんで手に入れたものでないと、手に入れてもまだ苦しむようなものでないと、優児には一生大切にすることなんてできないのかも』
「そ……」
『だって──優児は、サッカーも、仲間も、ファンも、みんなが大切におもって必死にしがみつくようなものは、ぜーんぶ、どうだっていいんでしょう?』
「……そうだけど」
『勝利も、栄光も、タイトルも、優児には無価値。なぜなら、手に入って当然のものだから──でしょう?』
「礼……」




