「頭では、」
「攻撃に行きたがるディフェンダーなんかがいるときに、ボランチにいてこそ、マコは抜群に生きる。守備がザルなチームに行けば、マコはきっと重宝されるはず。要は、やった先のクラブに恩が売れるってわけ。それが、もう一点」
『恩……』
「何より、──選手のためになる。ハタチなんて伸び盛りに練習だけやってるんじゃ、飼い殺しといっしょだ。マコはまだ出場時間が少ないからA契約の条件を満たせない。A契約をしないと実際のところはプロとは呼べない収入だし、試合に出ないと、出場給や勝利給も入らないわけ」
収入、と礼がつぶやいた。
「プロなら、プレーして稼がなきゃならない。プロとして雇った以上は一人前に稼げるまで面倒をみる、っていうプライドと実績。これが、やり手な理由の、最後の一点」
2部でも何でも、試合に出られるのなら行かせるべきだ、という判断は正しい。
自チームの利益だけでなく、何が選手の利益になるかまで考えるから、曽根兄弟をはじめ、彼は選手たちから信頼されている。
きっと、日本一、選手と本音で語らう強化部長、にちがいない。
『優児が強化部長でも、おなじ判断をするのね?』
「────してやるべきだろうなー、……マコのためにはね」
ベッドの側面に背をあずけて、赤間は天井を仰いだ。
「頭では、わかってる。だから──俺は、阻んだりしないよ」
でも、と心でつづける。
「つらいなー」
『優児……』
「マコと離れるのは、つらい。……どうしよう。これから、どうして生きていったらいいんだろう」
目頭が、つきん、と痛む。
今すぐ、一樹に抱きしめて欲しいとおもう。
大樹の胸に、飛び込んでしまいたかった。
けれどもう、彼らはそばにはいない。
「寮にはいつもマコがいて、俺がただいま、って言うと、かならず、おかえりって言ってくれたんだ」
笑顔ではないし、やさしい声でもなかった。
それでも、かならず、おかえりと言ってくれた。
笑いかける赤間に、いつだって、あきれたような戸惑い気味の表情を返してくれた。
それだけで、よかったのだ。
「おはようも、おやすみも、毎日、マコに言うことができた」
『まるで、夫婦みたいにね?』
「ふふ……夫婦じゃないけど。でも、家族みたいだった。俺が寝坊してると、部屋に入ってきて、カーテンを開けて、起きろって体を揺すってくれた」
『ふふ。まるで、母親?』
「この一年ちょっと、マコに、いっぱい甘えた。あんなに甘えたんだから、もう、満足しなきゃいけないのかなー」
出会ってからの七年ちょっと、ほとんど毎日、江野の顔を見ていた。
毎日、名前を呼んだし、呼んでももらえた。
数日、会えないことくらいはあったけれど、それでも江野のそばがいつだって赤間の帰る場所だった──
「もう二度と、マコのそばには、いられなくなっちゃうのかな……」
『優児、離れたって、マコは変わらないよ』
「変わるよ」
『変わらなかった』
「いいや、変わる。距離が離れたぶんだけ、新しい仲間がその隙間に入り込む。俺より、ずっと、マコに近い場所に……何人も、何人も」
『優児……』
「ううん。今度は、仲間だけじゃない。マコのいちばん近い場所が、永久に、埋まるかも──」




