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サボテンとクリームコロッケ -二重らせん-  作者: 十七夜
10:レンタル移籍/同日夜
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移籍話

『もしもし、……優児?』

「今、平気? 潤が、ショップで働いてるって言ってたから、夜なら空いてるかな、とおもって」


ハッと息を呑む気配が、電話の向こうから伝わってきた。


『潤に、聞いたの?』


赤間がうなずきながら返そうとした返事よりも先に、礼のことばがつづいた。


『マコの、移籍の話──』


ぐらり、と世界が傾いた気がした。

地面が揺れる。

寮のベッドに片手をついても、世界の揺れはおさまらなかった。

床に、へたん、と座り込む。


「マコが、移籍……?」


口にして、納得する。

潤の、別れ際の晴れない表情──

本題はやはり、礼のことなどではなく、江野のことだったのだ。


「そっか…………なるほど。潤に、ハメられた。やるな、あいつ」


くしゃり、と前髪を掻き上げる。

赤間がこういう反応をすると見越していて、あの場で直接言わずにいてくれたのかもしれない。

自分は『仲間』なんだとおもってる、そう訴えていたまなざし。

赤間があそこで、そのきもちを受け止めていれば、潤は自分の口から話してくれたのかもしれなかった。

言いたいことがあるとわかっていたのに、赤間は、潤の口から本気で聞き出そうとはしなかった。

語ってくれるとおもっていなかった。

赤間にとって、彼らは、何もかもさらせる相手ではなかった──

そのことを、潤は察してくれていたのだ。

まわりくどいAV話も、要は、赤間が自分たちにどこまでさらしてくれる気なのかを慎重に見極めていたのだろう。

赤間がすなおに示したのは、けっきょく、江野に関する興味だけだった。

潤が、ピッチの中で相手との間合いを見極めるのに長けていることは、赤間も知っていた。

とくべつテクニックがあるわけでもないのに、かんたんにボールを失うことのないキープ力は、相手をよく見るところからきている。

わかっていたが、ピッチの外で自分がやられるとはおもっていなかった。

その能力の高さに、舌を巻く。

現状、ボランチとしては江野よりも高く監督に買われているのも、無理はない。


『優児──?』

「もう、本決まりなのかな。潤、どこに行くんだって言ってた?」

『まだ、決まってはないみたい。そういう話があるっていうよりも、強化部長が、マコのために他のクラブに話を通そうとしてる段階、みたいだって。マコにこういう話があったら、行きたがるとおもうか、って訊かれたらしいの』

「…………滝田のオヤジか。あいかわらず、やり手だなあ」

『やり手?』


意外そうな礼の声に、赤間は笑い返した。


「マコって、今、チームじゃディフェンダーの控え扱いなんだけど。マコはそんなところじゃ生きないんだよ。あのひとはそれを見抜いてる。そこが、まず一点」


自分が言っているはずなのに、赤間は、べつの誰かがしゃべっている気がしていた。

混乱している頭の中とはべつのところから、勝手にことばが出てくるような。



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