枷をくれる世界
「IGAが、親会社として辛うじてかけた情けが、あの新社長だ。サッカーのことなんてからっきしだし、これっぽっちも思い入れはないけど。だからこそ、誰よりもシビアにそろばんを弾くことができる。自分に任された会社を潰さないためのやりくりなら、いちばんうまくできるひとなんだとおもう」
「いちばんうまく? 冗談じゃない。うまくっていうのは、傷は最小限にして、拾えるものはぜんぶ拾うやり方のことだ。景気よく、スパンスパン切るだけなんて、いちばん最悪な無能のやり口だ!」
「ちがうなー」
笑いながら、大樹が口を挟む。
「俺でもわかるぞ、優児。いちばん最悪な無能っていうのは、大丈夫大丈夫、っていいながら、結局会社を潰すやつだ」
「そうだな。今までの社長みたいなのだ。あのひとは、会社だけは潰さない。最上じゃないかもしれないけど、最低限のラインは意地で守り通す」
「いいや────IGAになら、もっと使える人間がいるはずだ。ケチって寄こさないだけだ。俺が見繕って引っぱり出す!」
にぎり込んだこぶしを、一樹にすくい取られる。
「おまえはそんなことしなくていい」
「そうだぞ、優児。おまえは、サッカー選手だ。ピッチの中で、ゲームを楽しんでりゃいい。それ以上のことなんてしたくないんだろ? やりたきゃおまえはやってる。やりたくないから、やらないんだ。できることは知ってるよ。でも、やらなくていい。それは、おまえの願いじゃねーんだから」
赤間は、大樹の体にぶつかっていった。
ぎゅっ、と抱きとめられる。
「おまえは、大企業の上の方でだって、楽に生きられるんだろーけど。そんな生き方がしたいんじゃねーだろ? 金がどうとか権力がどうとか、そんな生臭い世界じゃなくて、手でボール触っちゃダメってだけのクソ単純なゲームの中で、いかに遊ぶかを楽しんでたいんだよな?」
「でも──」
「サッカーは、おまえがガキみたいに遊んでいられる唯一の世界なんだろ。それだって、無心で遊んでられるわけじゃねーだろうけどさ。おまえに、手を使っちゃダメ、なんて枷をくれる世界なんてそうはねーもんな。な……優児。俺は、知ってんだ」
大樹に、頬ずりされる。
涙の筋が、すれて広がった。
「おまえは何でもできちまう。でも、ほんとは、ベッドの中かなんかで、ぬくぬく、赤ん坊みたいにやさしい手に守られながら、何もせずにまどろんでいたいんだ。その、万能で凛々しい体を横たえて、よしよしってただ撫でてくれるだけの手を欲してる。おまえは、何かをしてくれなんてことばは、むしずが走るほど聞きたくねーんだよな?」




