世界同時不況
「あのくそオヤジ! 売るって言った。あんたたちを。物じゃあるまいし!」
ソファを蹴りつけた赤間を見て、双子が顔を見合わせる。
「滝田さんが言ってるわけじゃねーって」
「そう、あのひとは売りたくなんかないっておもってくれてる。自分が育てたんだからな」
赤間のそばにきた一樹が、背中に手をまわす。
そうされると、赤間はいつだって、心の奥のいちばん繊細な部分に触れられている気がした。
ささくれだったところを、一樹の手だけが、やんわりと撫でて癒してくれる。
じんわりと、乾いた場所に何かが染み出してくるのだ。
「理由も、聞いたか?」
「──IGAが経営の自立を迫ってる、って。世界同時不況……あれのあおりで、FFに構ってたら母屋が吹っ飛びそうってことなんだろ」
「そう。ちゃんと優児は、新社長が経営に疎い滝田さんをそそのかしてるわけじゃなくて、そうせざるを得ないんだってことが、わかってる」
「たしかになー。滝田さんは、金はどっかから湧き出させるのが経済人だろーとか言ってた。話になんねーよ」
赤間は顔を上げた。
大樹は、こんなときでもヘラヘラと笑っている。
「……でも、母屋はそうかんたんに吹っ飛ばない。資本の規模も、人材も、まるでちがう。ここ一、二年は資本を減らすことになったとしても、耐えて乗り切るくらいの体力は持ってる。なのに、──楽して乗り切りたいがために、いちばん楽に切り捨てられるところを真っ先に切り捨てたんだ!」
「おまえはほんっと、賢いな」
よしよしと、一樹が頭を撫でてくれる。
「おまえがうちの社長だったら、IGAに乗り込んでって、きっとFFごといかに母屋を守ればいいか教授してやったりするんだろうなー」
「──とりあえず、無能な新社長なんかクビにしてやる」
「でも、いいんだ、優児」
「よくない! ぜんっぜん、いいわけない!」
とん、と肩を叩かれた。
興奮をなだめるように、二度、三度と。
そのやさしさに、胸がつまる。
「いいんだ、優児。おまえは、ちゃんとわかってる。FFは、IGAにとって、いちばん楽に切り捨てられるところ──ただのお荷物なんだって」
「………………」
「FFは、親の金をあてにして、リスクも負わずに遊んでた放蕩息子とおなじなんだ。メリットを返せないなら、放り出されても仕方ない」
「タイトルは取っただろ」
「十年かかってもひとつだけ。そのあいだに使った金は、経費として見合うかどうか────IGAの経営陣は一流だ。金が余ってたときならいざしらず、苦しくなればどこから切るかなんて、何年も前からとっくに決めていただろうとおもうよ」
一樹の言うことは、頭ではわかる。
赤間だって、ふたりのことがなければ、IGAの手際をむしろ賞賛したかもしれない。




