「ここはまだ、ゲームオーバーじゃない」
「何か、文句があるのか」
「マコは、やることだけやって、待っていれば、プロになれるとおもってたの? かじりついてでもプロになろうって気はなかったの? ダメなら、仕方ない、っておもう気でいたの?」
「どういう意味だ……」
「いい? ここはまだ、ゲームオーバーじゃないよ。八五分が過ぎて、二点ビハインド、そのくらいかな。逆転は難しいけど、不可能じゃない。時間は十分残ってる。なのに、マコはさっさと勝負を捨てるんだね?」
サッカーに例えたからか、江野は足を止め、表情を固めた。
「マコは、ほんとに俺のことばなんて聞いてなかったんだね。俺は、マコはプロになれるって言ったはずだよ。日本一だろうが、なろうと、本気で決めたら誰にでもなれる、俺は昔、そう言わなかった?」
「それはおまえのような人間の話だろ──」
「俺を、とくべつ扱いするの、マコが? 俺は、自分は天才だからとくべつだなんて、言ったことは一度もないよ。誰にでも、って俺は言っただろ。みんなが、自分は凡人だ、って頑に思い込んでるだけなんだよ」
「それはおまえの論理だ」
「そう? それならそれでもいいよ。でも、プロになりたいってきもちはマコのものだったはずだ。それでもなれないっていうなら、他の誰でもない、マコ自身が、ほんとうはなれるなんて信じてなかったってことだから!」
とたん、痛そうに眉を寄せる。
神前も、曽根兄弟に江野がプロになるのは難しいと言われたとき、こんな顔をしていたな、とおもう。
「俺は、何度でも言うよ。マコはプロになれる。そう、心から信じているからね。マコは、信じられないの? 俺のことばじゃない。自分のことをだよ」
「──うるさい」
「マコが今しなきゃいけないことは、女の子なんかとつき合って、自分の望みを誤魔化すことじゃない。時間が尽きるまで、戦い抜くことだろ」
「優児──!」
「みんながみんなプロになれないことなんかわかってたはずだ。切られる人間がたくさんいるからって、どうしてマコが自分だけ生き残ろうと足掻いちゃいけないんだ。足掻きたきゃみんな足掻けばいいんだ。そうしない人間に、マコがつき合ってやる必要なんかないんだよ!」
江野の手が、ガッと赤間の肩口をつかんだ。
が、それだけだ。
江野のつむじが見える。
腕が、小刻みに震えていた。
「マコがどれだけ心を傾けたって、他の誰も、こんなこと言ってくれないだろ。それが、マコの行く道なんだよ。後ろばかりを振り返ってちゃ、先には進めない。プロになりたいという夢は、自分自身にしか叶えてやれないんだ。マコがどんなに手を差し伸べても、諦めてしまったやつは救えない。最後まで諦めなかったやつだけが、プロになる。マコにできるのは、マコをプロにしてやることだけなんだよ」
赤間は、そっと江野の肩に手を伸ばした。
促せば、あっさりと上体がぶつかってくる。
赤間は、江野の頭を抱いた。




