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サボテンとクリームコロッケ -二重らせん-  作者: 十七夜
1:ジュニアユース入り/中1
3/60

二重らせんの相手

江野誠:赤間の中学時代からのチームメイト。中、高とチームのキャプテンをつとめ、現在はFFのキャプテン。

「優児、もっと真剣にやれよ」

「ふーん? 真剣にやりたいなら、マコがやるといいよ」


やんわり笑って応じると、江野誠はムッと眉間にしわを寄せる。

そんな顔してるから、見たくないものばかり見ることになるんだよ、と赤間はほほえみながらおもった。

でも、本人がそうしたいのなら、もっと笑え、などと言う権利は赤間にはないのだ。

彼にだって、赤間にもっと真剣にやれ、などと言う権利はないように。

ただ、彼のことばには、心がうずいた。

もっと真剣にやって彼が自分を愛してくれるのなら、そうしてもいいような気がした。

でも、赤間が、笑わない江野を受け入れているのに、自分だけがありのままを受け入れてもらえないのは不公平だ、とおもう。


不公平、ってなんだ?


自分でも、ときどき自分がわからなくなる。

一方的な要求をされることに、赤間優児は心底慣れていたはずだった。

他人がどうおもおうが、どう利用されようが、赤間優児の心はつゆほども動かない──そのはずだったのに。

かき乱されるのは、なぜなのか。

江野に、褒められたい自分がいる。

笑いかけて欲しいとおもう自分がいる。

でも、赤間が笑いかければ笑いかけるほど、江野は苦い顔をするのだ。

彼は、自分の信じる価値観を、つゆほども動かさない。

赤間のことを認められないと、目で、態度で、気配で、嫌というほど突きつけてくる。

なのに、なぜなのだろう。


マコが、好きだ。


認めて欲しい、振り向いて欲しい、手を差し伸べて欲しい、近づいてきて欲しい──

生まれて初めて、そうおもった相手だった。

彼に認められない自分は、愛されない自分は、この世界で、この人生で、まったくの無価値だと、おもえてならない。

そんなはずはないと、頭ではわかっている。

自分がどこから来たのか、赤間は知っていた。

ちゃんと、江野がどこから来たのかだって、赤間は知っている。

対等で、ただの他人であり、仲間でもあり、他の人間と何にも変わらない、そのはずなのに。

なぜ、こんなにも、江野誠だけが、とくべつにおもえるのか。

二重らせんの相手──そんなことばが浮かぶたび、赤間は否定した。

そんなはずはない。

こんな、自分のことをつゆほどもとくべつには想ってくれない人間なんかが、運命の相手のわけがない。

おなじ想いで、惹かれあう相手でなければおかしい。

だって、こんなにも自分は、彼の存在に焦がれているのに。

すべての価値観、世界観までもがひっくり返ってしまうほど、心乱される相手なのに──

相手にとっては、少しも、とくべつではないなんて。

そんなのは、おかしい。


俺のらせんの相手は、マコじゃない……!


一分おきに、赤間はそう自分に言い聞かせていた。

言い聞かせなければならないほど、ずっと、ずっと、江野から目を離せなかった。

生まれてきた妹を観察していたときだって、これほど真剣ではなかった。

そう、真剣なのだ。

江野がサッカーに注げという情熱を、ただ、江野に注いでいるというだけで。

情熱も、意識も、注げるものなら他のものに注ぎたい。

そうすればいいことなんか、わかっている。

それができないから、困っているのだ。

だって、江野以外、目に入らないのだから!

自分でも、どうしていいのかわからない。

生まれてこの方、赤間はこれほどにこんがらがったことはなかった。

世界はもっと明白で、明瞭で、システマチックで、すべてがおもいどおりになるのではなかったのだろうか。



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