誠心誠意
「全日本ユースか、俺らのときは奇跡だって言われながら決勝までいったけど、結局、M2ユースに負けたからなー。直たちは?」
「去年はベスト4です。っても、主力は二年だけど。おまえ、手を抜いてただろ、優児?」
「あたりまえだろ。優勝したって、直くんがでかい顔でトロフィー受け取るだけじゃない。どうでもいいよ、直くんの手柄なんて」
「俺の手柄の話してんじゃないってー!」
「大丈夫。今年は、ぜったい優勝するから」
「キャプテンがマコだからって言うんだろ。まったく、マコが何度おまえがキャプテンやれって言っても、聞きゃーしないんだから」
「ふーん。今年ユースのキャプテンやってるやつが、マコってゆーんだ?」
大樹が、赤間の顔をのぞき込む。
赤間は、微笑を返した。
「直。どんなやつなの?」
「えっ。……てきとーな優児とは対極で、すっごい真面目で努力家。いつも仲間のフォローに駆けずり回ってるボランチです」
「そういうのはボランチとは言わねーだろ。ふーん、それじゃプロになるのは少々きびしいかもなー?」
「え、どうしてですか?」
「仲間にフォローされなきゃならないようなやつはプロになれないからだよ、直。少なくとも、レギュラーにはいないから、そいつはべつの道を探すしかない」
「べっ、べつの道って、プロ以外ってことですか?」
一樹のことばを聞いた神前が、痛そうな顔で赤間のことを見る。
「そうじゃなくて。フォロー以外に、自分を生かせる道ってこと。──おまえはわかってるんだろ、優児。どうしておしえてやらない?」
「今のマコにはそれ以外できないだろうからね。どのみち、マコはプロになれるよ。自分の願いは自分で叶えるしかないって、ちゃんとわかってる。でも、ぎりぎりまで、みんなで少しでも上に行くことを考える……そういうやつなんだ。それがマコにとってのチームスポーツのありかたなんだよ」
「そりゃ、ますます、実は個人事業主なプロ選手には向いてねーかも。──でも、かっこいーな」
「そのまま大人になってくれたら、育成向きの人材になりそうじゃないか。覚えとく。何て名前なんだ?」
「江野誠。──誠心誠意って字の、マコト」
大樹は、『優児』という赤間の名前を予知か、と言ったが、赤間は江野の名前こそ、どう育つかを知っていて付けたようだ、とおもう。
それとも、そう名づけられたから、江野はあんなふうな人間になったのだろうか。
見れば、神前は心底心配そうな顔をしている。
けれど赤間は、江野がプロになれずに自分の前からすがたを消す運命などとは、すこしもおもわない。
ぜったいに、江野は自分とおなじ道を行くことになると、確信していた。
しかし、その予期は、赤間にとっては最悪のかたちで現実のものとなるのだった。
そのときは、これから九ヶ月後に訪れる──
それまでのときが、赤間の人生では、もっともしあわせな時間だったと言っても過言ではなかった。




