相応しい難易度のお宝
「おい、一樹──」
「優児? どうした、優児? 泣いてるのか?」
背中にそっと手が触れる。
じわりと、風穴の空いた胸に、何かがにじみ出した。
「よく、わかんないけどさ。おまえはきっと、さみしかったんだよな? 何でもひとりでできるから、ひとに甘えるってことを知らないんだ」
よしよしと、後頭部を撫でられる。
一樹の手つきだ。
と、目の前に跪いた誰かに、がばりと頭を抱きしめられる。
こちらは、大樹の腕だとすぐにわかった。
「かわいそうに……でももう、水なんかいらない、そんなもの注がれたら腐って死んじゃうって、サボテンみたいにつんつんしてなくていいぞ。俺たちが、太陽だけめいっぱい浴びせてやるからな。ふつうなら干からびちゃうくらい浴びねーと、おまえは満たされないんだよな? だから、そんなクソかわいー顔してるんだろ?」
「大樹。優児の顔は、どう見てもかっこいい系だろう。失礼なこと言うなよ」
「だからかわいいんじゃねーの。黙ってひとりで立ってりゃ、手も足も出ない完璧超人にしか見えないところが、めちゃくちゃかわいい。でも、この世にいるからには完璧じゃないんだろ? 何を手に入れたら、おまえは満たされるんだ?」
すぐそばで、大樹の呼吸が聞こえる。
耳元に寄せたくちびるを、赤間はかすかに動かした。
その名を、口にした自分に、自分でおどろく。
「そっか。まあ、さっぱり何のこっちゃら、だけど。いいじゃねーの。おまえがかんたんに手に入れられないってことは、おまえに相応しい難易度のお宝ってことだろ。そういうのにしか、心惹かれねーようにできてるんだな。楽に手に入るようなもんじゃ、追ってもつまんねーもんな!」
「お宝……」
「俺らのお宝はさ、ひとりじゃムリゲーってかんじ。だから、ふたりがかりなわけ。な、一樹?」
「ふたりがかりでも、けっこう厳しい。だから、優児が協力してくれるとうれしいな。おまえにはつまらない夢だろうけど、おまえにも追うものがあるなら、そのかけがえのなさくらいはわかるだろ?」
彼らにしてみれば、赤間が追うものも十分馬鹿げているだろう。
赤間が最高にいい男だ、と主張するたび、江野を良く知る礼でさえ困った顔をするくらいだ。
「日本一になることが夢なの?」
「うーん。ちょっとちがう」
大樹の腕から逃れさせ、赤間を立たせてくれた一樹が、やんわりと肩を抱いてくる。
もう五年以上のつき合いだが、江野を含め、同期の誰も、赤間にこんな触れ方はしてこない。
「俺たちはさ、この福岡を、サッカーの強豪クラブがある都市、にしたいんだ」
「……バルセロナとか、マンチェスターとか、ミラノみたいな?」
「そう! その国に行って何をするのかと言えば、サッカー観戦しにあそこにも行きたいなっておもわれるような都市。名物はサッカー、っていう」
「なるほどね。でも、人工島のあのスタジアムはどうかなー」
一樹と大樹が、たちまち顔を見合わせる。
「さすが。一発で、最大の問題点を射抜きやがった……」




