メビウスの輪
ふと、神前と目が合う。
「すごい。あの優児が毒気抜かれてる」
「うるさいよ、直くん。というか、これが昔言ってた、すごい先輩たちってやつなの? たしか、尊敬するぞって言ってたよね?」
「すっ、すごいんだぞ。ちゃんと、すごいんだからなっ?」
ムキになって言い返す神前を見て、くすくすと一樹が笑う。
「いやあ、言うほど大したこっちゃないな。だから、おまえたちが来るのを、俺たちはずっと待ってたんだ」
「そうそ。俺たち、このファルケンを日本一のチームにしてーんだよ」
「日本、一……」
ちら、と神前の視線が赤間を向く。
おまえならできるよな、そう言っていた。
「いっしょに、ここを、日本一のチームにしよう」
「俺たちに力を貸してくれ。直、──優児」
ハイ、と感動しきった顔で、神前が応じる。
赤間は、あっけにとられていた。
今や、高校サッカー界の覇者となっている長崎仰星の桜井と鈴木を見たとき、ふたりはコインの表と裏だとおもった。
永遠に交わることのない、まるで、二重らせんのような関係だと。
今、目の前にいる双子も、表と裏を成しているように見える。
けれど、彼らは『二重らせん』などではない。
生まれたときから、ふたりで完全に完結してしまっている、完璧なほどの絆の形──
「メビウス……」
そう、まるで、メビウスの輪のようだ。
どちらが表とも裏とも決められない。
どちらもが表であり、裏でもある。
どこにも始まりはなく、また、終わりもない。
あるのは、どこまでも、どこまでも、永遠にめぐる、ふたりでひとつという、この世に許されたもっともうつくしい不動の絆。
「おーい? 優児、どうしたー? 宇宙と交信でも始めたのか?」
目の前で、ひらひらと手を振る、とぼけた男。
神前のそばで、バカだな、とでも言いたげに、そのうしろすがたを見つめる相方。
双子、という形。
自分とおなじ親を選んで生まれてきただけで、妹をとくべつなものにおもえた。
だからこそ、おなじとき、おなじ場所に、いっしょに生まれてきたふたりの間にどんな絆があるのか、赤間には痛いほど想像がつく。
どんなに離れても、離れても、離れても、その結びつきは、永遠であり、決して壊れはしない。
誰にも、何者にも、決して、壊せない。
生まれてきて、誰かと結ばれるのではない。
結ばれた形で、この世界に、生まれてきたのだ。
そういう絆の形も、あったのだ。
あったのだと、今さらながらに、思い知らされる。
かくん、と膝が折れた。
胸に、ひゅーひゅーと風が吹き抜けていく。
どうして自分は、そんな形で生まれては来なかったのだろうか?
どうして、自分は、ひとりで生まれて来たのだろう?
ひとりぼっちで。
手に入らないものを、追って、追って、永遠に追いつづけて、いつか、ひとりで死んでいく──
そんな絶望を味わいたくて、生まれてきたのだろうか。
そんなことのために、自分は、生まれて来たのか……?




