三人目の『とくべつ』
「そうか……それは、そうかもね」
『優児?』
「だったら、なおさら、俺は一生、マコにこの想いを悟られるわけにはいかないな。好きだなんてことばを、本気にさせるわけには、ぜったいにいかない」
『優児──』
「ありがとう、礼。気をつける。べつに誰を選んだっていいけど、俺だけは、選ばせるわけにはいかないよ」
『男だけは、でしょう?』
「まあね。でも、マコって男に恋い焦がれられるタイプじゃないとおもうから、そっちの心配はあんまりいらないんじゃない? それに、そばにいれば、俺が誘惑でも何でもしてマコから追っ払うし」
『……優児は、ほんとうに、自分のことはどうでもいいのね』
「そうだよ。マコと、あとはうちの妹以外、とくべつなひともとくにいない。俺に言わせれば、妹と、マコ、ふたりもとくべつなひとができただけで、むしろ奇跡的なんだけどさ」
『ふたりいるなら、三人目もできるかもしれないよ?』
「三人目なんていないよ」
『どうして? まだ出会ってないのよ。だったら、わからないじゃない?』
「わかるよ。だって、俺の人生だもん。これ以上、大事におもうひとなんて、べつにいらない」
『だったら、賭けてみる? 優児の人生に、優児にとっての想定外が、起きるのかどうか』
礼のことばに、息を呑む。
礼が言わんとしていることが、赤間にはわかった。
「賭けにならないよ。俺が、大事でもとくべつでもないって、おもっちゃえば済む話なんだから」
『そんなかんたんな話じゃないわ。そんなふうに片付けられるのなら、優児は、マコへの想いに苦しんだりしない。──そうでしょう?』
ぐっ、と赤間は返答に詰まった。
赤間の心をコントロール不可に陥らせるのが、江野誠という男だ。
たしかに、そう──
だからといって、さらにもうひとりのとくべつなど、そんなものはなおさらいらない。
『もしも、またとくべつなひとができたときは、信じてね。きっと、マコと優児がしあわせに、誰よりもしあわせに、結ばれる未来もあるってこと──』
胸に、じわりと広がったのは、ほのかな熱だ。
あるわけがない、そうおもう。
けれど、あって欲しいとも、赤間の心ははっきりと訴えていた。
江野と結ばれる、未来────
ただそれを、赤間が無邪気に頭に思い描くことだけは、不可能だった。




