二重らせんの二人組
七歳になったとき、母親が妊娠した。
赤間優児にとって、自分の身近に生まれてくる誰か、の存在はそれ以外の他人とは、まったくちがうものにおもえた。
自分のところに、誰かがやってくる。
もちろん、その命がどこから来るのかも知っていた。
生まれてくる前からワクワクしていたし、生まれてからもワクワクしていた。
たくさん、たくさん、語りかけた。
八歳年下の妹の観察が、赤間優児にとって何よりの楽しみだった。
そのまま赤間優児の愛を一身に受けて育っていたなら、妹もまた、何らかの天才と呼ばれるようになっていたかもしれない。
けれど、両親は、二人目の天才など望まなかった。
まるで、天才は稀であるから価値がある、とでも言いたげな選択だと、赤間優児にはおもえた。
ただ、ありようは自分がコントロールするものだとしても、育て方、というコントロール権は親にある。
ほんとうはそれさえも、妹は選んでここに生まれてきたのだ。
だから、妹がどう育つべきかを決める権利は、自分にもないのだと赤間優児はよくわかっていた。
自分に選べるのはただ、妹を愛するか、愛さないか、それだけなのだということを。
妹から引き離されて、長崎県にある母の実家に預けられた赤間優児は、そこでふしぎな二人組に出会った。
べつの家に生まれ、年もちがう。
なのに、兄弟よりも絆の深い、コインの表裏のようなふたりだった。
自分のことが誰よりもよくわかっているのが赤間優児だとしたら、彼らは、互いのことだけが誰よりもよくわかるのらしい。
深く通じ合い、しかし決して重なることのない、二重らせんのようで──
見ているとひどくもどかしかった。
けれど、そんな相手がいることが、心底、うらやましくもあった。
いつも互いのことだけを見て、互いの望みを読み、互いのために動く。
いつだって正解のない、サッカーというスポーツにも魅力を感じたけれど、いちばん惹かれたのは、二重らせんのようなその二人組だった。
どこまでも、どこまでも、追って追って、終わりのない、二重らせんの相手──
自分にも、そんな相手がいるのではないか、と赤間はおもった。
そんな相手と出会うために、自分はあえてこの世界に生まれてきたのではないだろうか、と。
そのことに気づくために、自分は大切な実の妹から引きはがされ、この土地にやってきたのではないか、と。
これからの自分には、その相手との出会いが待ち受けているのだろう、と。
きっと、この、サッカーというスポーツを通じて、出会うのだ、と。
だから、十歳という遅さで、サッカーを始めた。
おもえば、このときの赤間優児はまだ子どもだった。
ボールを追ってじゃれ合うふたりが、友情よりも濃い絆で結ばれている意味など、考えもしなかった。
それは家族ではないし、家族にも、成り得ない。
どこまで行っても、重なり、交わることなどない、二重らせんの宿命…………その、意味など。
二重らせんの二人組は、それから七年後に高校選手権の覇者、長崎仰星のメンバーとして日本のサッカー界を沸かせた。
王様、桜井陽斗と二年生皇帝こと、鈴木臨だ。
そして、長崎から実家のある福岡へと戻った赤間優児には、予期した出会いが待っていた。
赤間優児、十二歳──
中学生になった赤間優児は、すでに思春期を迎えようとしていた。