キャプテンと副キャプテン
十秒とせずに、背中に誰かの足音が近づいてくる。
「聞いてたの、マコ?」
「いや。礼は俺がいるのに気づいてたけど、来るなって、言われてる気がして」
「変なの。マコに聞かれて困る話なんかしてないよ?」
「あいつ……」
「マコが、仲間じゃなくなっても友だちだって言ってくれたって、喜んでたよ」
「……あいつは、おまえのことが好きだったのか?」
赤間は、おもわず背後に向き直った。
「──さあ。そうだとしても、マコには関係ないことじゃない?」
「それは、そうだけど……」
「それとも、男でも女でもいいなら、礼とつき合ってやれ、とか言おうとしてる?」
「っ…………」
気まずそうに息を飲んだ江野が、うつむく。
「俺はねえ、マコ。真剣なきもちに応えられるような誠実さなんて持ってないんだよ、誰かさんとはちがってね」
「礼のこと、嫌いじゃないんだろ?」
「嫌いじゃないから、何なの? マコにとっては人助けも愛の一種なのかもしれないけど、俺は好きな相手以外と、とくべつな関係になる気はないよ。まあ、セックスだけしてやれっていうなら、それはもちろんできるけどね。心も誠意もなくていいなら、俺でもできる」
とたんに、江野が赤間の肩を突いてくる。
怒った顔……
赤間は、おもわず笑った。
「何で怒ってるの。わかってて、俺に、キスの相手をさせたんじゃないの? それとも、俺がキスをしたのは、マコをとくべつに想ってるからだとでもおもってた?」
「──黙れ」
「マコはほんとうに俺がわかってないね。大丈夫。礼は、ちゃんと俺がどんなやつかくらい、わかってるから」
「おまえ……!」
「んー?」
「おまえのことなんか、わかるわけがないだろう! さっぱりわからないし、──わかりたくもない!」
もういちど、赤間は笑った。
「そう? でも、もうあと三年、俺たちはチームメイトだからね。これからもよろしく、期待してるからね、キャプテン?」
「ふざけるな。次は、おまえがやれ!」
「やるわけないよ、キャプテンなんて。チームが勝とうが負けようがどうでもいい人間に、そっちこそ任せられるの?」
ぎり、と江野が奥歯を噛む。
江野がキャプテン、自分が副キャプテンというのは、良かった。
どんなに江野が不満そうな顔をしても、せっせと横から助けてやることができた。
あんなに楽しいことはない。
そこまでできるのならおまえがキャプテンをやれ、と江野が毎日のように心で叫んでいたことを知っている。
それでも、赤間が助けてやりたいのは、江野だけなのだ。
他のチームメイトが困ってようが、孤立してようが、赤間はつゆほども構わない。
江野以外は、心底、どうだっていいとおもう。
江野以外のよろこびなど、赤間の胸には少しも響きはしないのだ。
あっても、なくても、おなじもの。
なぜああも、他人事にばかりかかずらうことができるのか、赤間には、江野の方がよっぽどふしぎでならない。
わかりたくても、赤間にはさっぱりわからないのだ。
わかりたくもない、というのが嘘だとはおもわないが、江野にわからないのも、無理はない。
わかろうとしたところで、江野にもわかりっこないのだ。
そういう、永遠に相容れない関係にあるのだ、きっと。
赤間にわかることはただひとつ。
それは、江野は、赤間がぜったいにしない選択をしつづけるのだということ。
そしてまた、赤間の選択も、江野がぜったいにしないものなのだろう。
残酷なまでに、すれちがうふたり──
それこそが、らせんを描くもの同士の、抗えない宿命なのに、ちがいなかった。




