退団の日
「優児」
ジュニアユースでの練習の最終日。
別れ際に、礼がそっと赤間に近づいてきた。
「なに?」
「今日、マコが……クラブをやめて仲間じゃなくなったとしても、友だちなのは変わらないから、って言ってくれた」
「そう」
「話したの、優児が?」
「うん。マコにどうしてもって言われて、断われなかった。礼に、そう言うために、俺とキスまでしちゃって。──バカだよねえ。何で、ああなんだろ?」
おどろいた顔をした礼が、くすっ、と笑う。
「すごいな、マコは。その純粋さで、優児に愛される……」
「純粋? ただのカタブツだよ。自分の理想を貫くためには、好きでもない男とキスまでしちゃうんだ」
「それでも、マコが好きでしょう?」
「……何でだろうね」
「何でだろうって、言わせる人間だからだとおもう。優児にもわからない人間だから、マコに惹かれる──ちがう?」
「そうかもしれない」
「…………優児」
「ん?」
「僕は、マコのことが好きな優児が、とても好き」
「うん。ありがと」
「──知ってた?」
「知ってた」
「そっか。やっぱり、そうか。……そんな気は、してた。だから僕じゃ、優児のいちばんにも、とくべつにも、決してなれない──」
「うん、そう。ごめんね」
礼は、泣きそうな顔で、それでもほほえんだ。
「それでも、マコのことは好き──そんな優児のことが、僕は好きだな」
「マコのことが好きで、じたばたしてる俺がいいの?」
「だって、マコのことが好きじゃなきゃ、僕たちに接点なんてなかった。でしょう?」
「そうか。そうだね」
うなずいて、それから赤間は礼の名を呼んだ。
「もう、無理することないよ。僕なんて、自分を呼ばなくたっていい。自然なすがたに返りなよ。味方は少ないかもしれないけど、ゼロじゃないから」
「うん……、ありがとう、優児」
「ここにでも、どこにでも、いつでも好きな格好で会いにおいで。マコも──きっとなるべく、おどろいた顔はしないでくれるとおもうよ」
「ふ、ふふっ…………どんな顔、するんだろう。ちょっと見てみたいな」
「ああ。礼のおかげで、マコのあぜんとした顔が見れたんだ。あれは、かわいかったなー。キスして赤くなってるのも、かなりかわいかったけどね」
「マコをかわいいなんて言うの、優児くらいだね」
「マコはさ、きっとこれからどんどんかっこよくなるよ。世界一、いい男になるとおもう」
礼は、謎めいた微笑を浮かべた。
自分なんかに恋をしていたって仕方ないと、赤間が言わんとしているのが伝わったのだろう。
でも、礼はうなずかなかった。
「──いつか優児を選んだら、そう認める」
「えー……」
「優児は追いつづけて。好きなだけ、マコを。こちらなんか、振り返らなくたっていいから」
「でも、まあ、話し相手くらいにはなってくれる?」
「うん。ふたりの、友だちとして……ね?」
ふわりとほほえんで、礼は去って行った。




