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サボテンとクリームコロッケ -二重らせん-  作者: 十七夜
3:三角関係/中3
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ファーストキス

「やっちゃったことは、なかったことにはならないんだよ。それでも?」

「それでも──」

「マコはまったく、頑固だね。きっと、ファーストキスなんだよね? せめて、礼とした方が、まだマシなんじゃない?」

「こんなこと、おまえ以外に、頼めるわけないだろう」

「嫌じゃないの?」

「嫌だから、つべこべ言うのか?」

「俺は────できるよ。マコがしろって言うならするし。マコが忘れてくれって言うなら、忘れてあげるよ」


腕を掴まれたまま、江野の肩に手を置く。

とたん、意を決したように、江野がまぶたを伏せた。

閉じたまぶたも、くちびるも、緊張しているのがわかる。

かわいそうなほどに。


「べつに、痛くないよ。そんな、覚悟を決められると、傷つくなぁ」


ふっ、と少しだけ、江野のくちびるから緊張が解けた。

ぎりぎりまで目を開けて顔を寄せ、それから、きつく、目を閉じる。

心臓が、胸を突き破りそうだった。

肩に置いた手が、震える。

礼にしたときはどこにあるかもわからなかった心臓が、痛くて、痛くて、仕方ない。

それでも──


マコと、キス……する。


どうってことはない、と自分に言い聞かせ、赤間はくちびるをそっと寄せた。

やわらかな感触に胸が震えないうちに離れようとして、両頬に、触れたものを知覚する。

指、だ。


マコの、手──


いっしゅんでは意味がない、とでもいうように。

何という、頑迷さと、残酷さなのだろう。

赤間にとって、キスなど、単なる記号でしかない、とおもっているにちがいない。

礼とのキスは、まさに、記号に過ぎなかった。

したからといって、赤間の中の、何が変わるわけでもない、ただの挨拶ていど。

でも、江野とは、ちがう。

ちがうのだ、江野だけは。

それを、痛いほどに、思い知る。

胸が、震えた。


好き、だ────


ぬくもりに、泣きたくなる。

キスとは、こんなにも、心がふるえるものだったのだ。

それでも、きっと、そんなおもいを感じているのは、自分だけなのだろう。

江野が味わっているのは、べつのものにちがいない。

男とキスをしたって死ぬわけではない、という実感だとか。

吐き気がする、なんて自分はおもわなかった、とかいう事実以外、江野は求めてはいないのだ。

そんなことのために、赤間にキスをさせる。

残酷な、人間だ。

つゆほども、自分を愛してなどいないくせに。

愛してない、どころではない。

好きですら、ないのだ。

好きでも何でもないから、キスをしろなどと、平気で言えるのだ。


マコは、ひどい。


舌でわざとくちびるを舐めれば、驚いたように顔を押しやられてしまう。

赤間は、ほほえんだ。


「なんだ。やりたいのは、子どものキスだけ?」

「──こっ、子どもで、悪かったな!」


くちびるを手の甲で拭いながら、江野が頬を赤くする。

かわいい反応だった。

どんな反応だろうと、それは赤間が引き出した、赤間に対する反応に、ちがいなかった。


「これで、良かったの?」

「ああ。……嫌なこと頼んで、悪かったな」

「べつに嫌じゃないよ。マコとなら、いつでも歓迎」


にっこり笑えば、たちまち江野は嫌な顔をする。


「おまえは、ほんとに、変なやつだな」

「そう?」

「本気で、男でも、女でも、構いやしないっておもってるのか?」

「うん。心がひとつずつある、おなじ人間だよ。ただ、少しだけ、ありようがちがうだけ。それだけのことじゃない?」

「──俺は、まだ、そこまでは割り切れない」

「それでいいよ。それがマコのありようなんだから。それでも、礼を受け入れてあげたかったんだろ? マコは、骨の髄までやさしさでできてるよね」

「俺が、やさしい?」

「やさしいよ。不器用だけど、偽善のない、心のいちばん深いとこから出てくるのが、マコのやさしさだよ。いつかそれが、心も姿もうつくしい女のひとに、ちゃんと伝わるといいね」


江野は、信じられないものでも見るように、赤間を見返した。

そして、そのことばに対する返事は、ついぞ返ることはなかった。



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