懇願
「そんなに、意外?」
「だ、────だって」
「礼は苦しんでた。他のやつらが女の子の話なんかを楽しそうにしてるとき、すこしでも不自然な反応をして、自分の性癖を知られちゃったらどうおもわれるだろう、って」
「お、まえは……?」
「男が好きだろうが、女が好きだろうが、そんなのどうだっていいよ。礼が、女の格好をして生きたいっていうなら、べつにそれでいいとおもうけど」
「だけど」
「俺は、そうおもう。だから、悩んでる礼を抱きしめた。キスもした。口紅や髪飾りも買って、プレゼントしたよ。マコたちにはできなくても、俺にはできる。あいつ、化粧すると、そこらの女の子よりよっぽどきれいだよ。きれいだって褒めてあげるくらい、かんたんなことじゃない」
「………………」
江野は、何だか絶望的な顔でうつむいてしまった。
まだ、赤間の腕にかけた手は離さない。
離せないのかもしれなかった。
「いっしょにサッカーをやって、裸の付き合いってやつをして、それがマコの言う仲間なの? そうできないやつは、仲間じゃない?」
「──黙ってくれ」
「そんな顔をされるってわかってたから、礼は言わなかったんだよ。マコに、誤解されたままで離れる方が、まだマシだとおもったんだとおもう」
「優児……!」
江野が、赤間の両腕をにぎった。
痛いくらいに。
つむじが見える。
うつむいて、どんな感情を抑え込もうとしているのだろうか。
「裏切られたなんて、おもわないであげなよ。人には、それぞれ自然な生き方ってものがある。サッカーより大事なものだって、あるんだよ」
「──わかってる」
「礼は、マコのこと、信頼してたよ。仲間だって言われるのが、うれしかったんだよ。だから中学の終わりまで、自分を偽りながら耐えたんだ」
「──わかってる!」
「ほんとうは、自分から正直に告げて、受け入れて欲しかったに決まってるよ」
「わか、……かってるっ」
「マコが、自分を責めることないんだよ。正直言うとね、礼と、マコは頭が固いから、ぜーったい言うまで気づきっこないな、って笑ってたんだ。さっきのあっけに取られてるマコの顔、礼に見せてあげたかったな。やっぱり、ってきっと笑ったとおもうよ」
「…………優児」
「うん?」
返事をしたら、ひどく思い詰めたまなざしが、赤間を見た。
ぎくり、とする。
「──頼みが、ある」
背筋を、冷たい汗が伝い落ちる。
江野の言いたいことは、わかる気がした。
でも、それでも、赤間はうなずきを返す、ほほみを浮かべて。
「マコの頼みなら、何だって叶えてあげる」
「俺、に……」
キスしてくれ、と耳に届くぎりぎりの声が、乞うた。
苦い想いが、胸に湧く。
「マコ。それは、自分への罰なの?」
「ちがう……!」
「そんなことをしたって、礼はよろこばないよ」
「わかってるっ!」
「そうしたら口にできるかもしれないことばならね、そんなことをしなくたって、ちゃんと口にできるから」
「……優児!」
赤間は、懇願の声に息を止めた。




