同期の仲間
「優児──」
めずらしく、怒っている、以外の顔で寄ってきた江野を、赤間は見返した。
「どうしたの? 悩み事?」
「……礼が、クラブをやめるって言ってる」
「そうだね。それが?」
みるみる、江野の目が大きくなる。
「……それが?」
「チームのエースがいなくなる、って心配してるの?」
「そんなことじゃない!」
「始めたのは礼の意思で、やめるのも礼の意思だよ。それでいいじゃない」
「いいわけないだろっ!」
赤間はぽり、と頭を掻いた。
心の底から、いいわけない、とおもっている人間を説得するのはやっかいだ。
「引き留めたいなら、礼と話したらいいんじゃない?」
「────」
「そうか、泣かれちゃったか」
くしゃくしゃと、赤間は髪を掻き回す。
江野は心底渋い顔をしていた。
赤間は動作で、隣に座るよう江野を促す。
江野はめずらしく、おとなしく赤間の誘いに従った。
「もう、限界なんだとおもうよ。好きにさせてあげなよ」
「理由もわからないのにか」
「理由がわかれば、好きにさせてあげられるの?」
「それは──」
「それはマコの自己満足だよ。仲間だっておもうなら、聞かずに、好きにさせてあげたらいいじゃない」
「………………あいつは、俺たちを、仲間だとはおもってないのか──?」
重い問いに、赤間はため息をついた。
「仲間だから言いだせないことっていうのもあるんじゃない?」
「おまえは気にならないのか」
「俺は知ってるもの」
「──なに?」
「気づいてたよ。とっくに。礼に言わせるまでもない。だから、好きにしたらいいよって言ったけど。それが?」
膝に置いた江野のふたつのこぶしが、ぶるぶると震えている。
仲間が、何よりも大事な男なのだ。
そんな江野がどんなきもちでいるか、わからないわけがない。
「礼は、必死で隠してた。気づけないのは、無理ないよ。知らないでいてあげた方が、いいんじゃない?」
そう言った赤間を、江野が振り向く。
赤間は、内心、嘆息した。
江野にそんな目をされるのは、心がうずく。
「そりゃ、マコが聞きたいなら、俺は言うよ。聞いても、マコが礼を仲間だって言えるならね。言えないなら、聞かないまま、別れてあげなよ」
江野の手が、赤間の腕に触れる。
衣服越しにだ。
それでも、ドクッ、と心臓が跳ねた。
「教えてくれ、優児──」
「……礼はね。もう、男の中で、男として、生きたくないんだよ」
「は──?」
「女として生きたいんだ、って言えばわかる?」
とたん、江野がぽっかりと口を開けた。
あぜん、を絵に描いた顔だ。
腕にのった江野の手に、力が加わる。
離して欲しいというきもちと、もっときつくにぎって欲しいきもちが、胸の中で混ざり合う。




