通常能力
「なあ。マコには理解できんの、こいつの言ってること?」
「できるはずないでしょう。お経か何かだとおもっておけばいいんですよ」
「お経……?」
「あー、そうだね。お経と似たようなものかもしれない。方向性はたしかにいっしょ」
おもわず赤間は笑った。
神前が、江野と顔を見合わせている。
「ところで、マコにひとつ訊いておきたいんだけど」
「──ノーコメント」
「マコには、夢精の経験があるかどうかなんて訊かないから、大丈夫。……ただ、マコの好きなタイプってどんなだろうって」
「そんなこと、どうだっていいだろ」
「うーん。でも、将来、マコと好きな相手が被ったりすると困るからさ。かわいい子が好き? スタイル重視? それとも、美人系?」
江野は答えず、沈黙を貫いている。
赤間はゆっくりとうなずいた。
「なるほど、美人がいいのか。まあ、マコが心惹かれる相手って、そうだろうね」
「えっ! 今マコ、何にも答えてないよ? ないよな?」
「顔見てればわかるよ。俺を誰だとおもってるの、直くん。だから、サッカー始めて二年で、ここに入れたんじゃない」
「……マジか。超能力者?」
「何言ってんの。通常能力だよ。他の人間が、ほんとの能力の九五パーセント以上使わずにいるままなんだって。俺は一〇パーセントくらいは使ってるかもしれないけど、残りの九〇パーセントまで使おうなんておもわない。そこまで本気になるともう、こんなくだらない常識がはびこった世界、ぜんぶぶっ壊さずにはいられなくなるだろうから」
こちらを見た江野に、にっこりと笑いかける。
たちまち、江野が不審そうな顔をした。
「でも、もし、マコがつき合ってくれるのなら、どこまでできるか、いっそ本気になってみるのもいいかなーっておもうよ」
「つ! つき合うって、こここ、恋人として?」
「アホなの、直くん。マコも俺も男だよ。見てわからない?」
「────わか、る。わかるけど。……って、わかるに決まってんだろ。クソっ、優児めー」
ぶつぶつと言う神前を見て、赤間は笑った。
江野は、見るべきトップチームの試合に、視線を戻している。
その表情にあるのは、頑にもおもえる、赤間に対する明確なノーだった。
でも、もしも彼が、一〇パーセントのその先へ、つき合ってくれるのなら──
赤間は本気で、一〇〇パーセント全開で生きてみてもいいかも、とおもっているのだ。
そう、江野さえ、つき合ってくれるのならば…………
どこまでも、どこまでも、江野といっしょならば、行ってみても構わない。
──けれど。
そんな衝動、いや、焦燥を、赤間はいつだって、ないもののように心の奥に押し返してしまうのだった。




