夢魔と悪魔
「セックスがしたいなら、頭の中でいくらでもすればいいじゃない。悪いことだとか、いけないことだとか、いちいち考えなくていいんだよ。子どもには早いっておもうなら、自分を大人にして想像すればいいだけ。結婚してなきゃダメだとおもうなら、結婚した後を想像すればいいよ」
「ふえー…………」
「体に組み込まれてる生理現象に、いいも悪いもない。出さなきゃ溜まる、ただそれだけのことだよ。なくてもいいときにはなかったものが、必要なタイミングで湧いてくるってだけ。こっちの意思なんか関係ない。イイ子かワルイ子かも、まるで関係ない。そう割り切って、開きなおれば、楽に処理できる。大人が、そうおしえてあげればいいだけなのにね」
ぽかーん、と神前は大口を開けている。
江野は、赤間の方を見ないままだ。
ただ、ややうつむいた顔が、すこしだけほほえんでいるように、赤間には見えた。
単なる錯覚かもしれない。
でも、江野の心がわずかにでもゆるんだなら、うれしかった。
「男が、体の変化にバカみたいに悩むのは、出すとき快感を味わうからで、努力もせずによろこびを味わっちゃいけないって思い込まされているからだろ? でもさ、大人はみんな、よろこびを味わうのに努力なんか要らないってほんとは気づいてるんだよ。そうと認めたくなくて、子どもには嘘をつきつづけてるだけ」
「そっ、…………」
赤い顔をして、神前が目を白黒させている。
赤間はふわりと笑った。
「仙人のひみつもおしえてあげようか? セックスで、男がハアハアいうほど動いてきついおもいするのも、ただの努力信仰。苦しいおもいをした後にしか、よろこびは味わえないっていう。仙人は、そんな努力がまったくいらない快感の味わい方を知ってるんだ。──そうだ。直くん、夢精って経験ある?」
「げっ…………! あ、いや、……その」
「あれを、大抵のやつが死ぬほど後ろめたくおもうのも、何の努力もなしに、ものすごくきもちいいおもいをしちゃうからだよね。あんまりきもちよくて、心底後ろめたくて、だからきもちわるい経験だって自分で自分を洗脳する。それほど、強烈な快感だから。いいものだと認めたら、この世界の常識の中では、きっと生きていけない」
真っ赤になった神前が、江野の腕をゆさぶる。
「マコ、何とかして、この非常識男! あ、あああ、悪魔のささやき聞いてるみてーッ」
「ふふ。まあ、悪魔でも、仙人でも、何でもいいよ。夢精だって、サキュバスの仕業なんて言うらしいし。かわいいよね。ついつい味わっちゃった快感を、悪魔のせいにしちゃうなんて。味わいつづけたら精気吸い取られて死んじゃうぞ、って脅しつき」




