ねぇ千恵子、あんただったら自分のパンツ、一体いくらで売れる? その3
「そういえば今話してて思ったんだけどよ」
「え、何?」
「よく考えたら、誰かが使ったものを売るときって、普通値段って下がるよな」
「あ、確かに」
本だって漫画だって服だってCDだってそうだ。普通、中古品というのは新品より安くなる。それはそうだろう。要は誰かのお下がりなんだから。誰だって誰かの手垢のついたものは出来るなら使いたくはない。
「でも、女子高生のパンツは、その類ではない」
「そうなんだよな。不思議だよなー。フツー、下がると思うんだけどな。何故か上がっちまうんだよな」
「んーそれはやっぱり、さっき言ったように、女子高生ブランドの力じゃない?ほら、有名人が使った衣服とか道具とかそうじゃない。なんかなんちゃら鑑定団とかにそういうの時々出てくるけど、やっぱり高値がついてるみたいだよ」
つい口が滑って私の好きな『なんでも鑑定団』が出てしまった。あの番組、好きなんだよなあ。別に骨董品とか興味あるわけじゃないんだけど。でもいつ超高額の品が出るかが楽しみで、ついつい見てしまうのだ。同級生にはジジくさいと思われるだろうから、決して口にはしなかったけど。
「そりゃ分かるんだよ。そいつらはちゃんとそれなりの実績を叩き出してるわけだろ?スポーツの記録だったり、作品の受賞歴だったり、あるいは人間的な魅力だったりな。でも「女子高生」ってのはどうだ?単にある一定の集団のことを指すだけで、そん中には超ブサイクな奴から超美人な奴まで全員いるんだぜ?つーかほとんどは単なる一般人だ。なのにただ女子高生であるというだけで、なんでそんな付加価値がついてくるんだ?」
「う…」
鈴原さんの言うことは最もだ。さっきも言ったように、私達はあくまでただの女子高生だ。特別な能力があるわけでもないし、特別な美貌を持ち合わせているわけでもない。私なんて、中学まで友達もいなかったような、根暗でコミュ障の寂しい人間だ。何も、輝かしい功績を残したりはしていない。
それでも女子高生だから、高値で売れるだろうという根拠は…
「…女子高生が、一生で3年間しかないから」
鈴原さんも黙った。
そうだ、女子高生というのは、一生の内でたった3年間しかない。とても、とても限られた時間なんだ。
もちろんそれを言うなら小学校だって6年間しかないし、中学校だって同じ3年間しかない。でもその中でも最も若々しく、瑞々しく、華々しい時期。それが高校の3年間ではないだろうか。
義務教育の9年間を終え、それまでべったりだった親の手から離れ、それまでとは違う、様々な経験のできる場所。
部活に打ち込む人もいるだろう。文化祭や運動会等の学校行事に取り組む人もいるだろう。あるいは、好きな人を見つけ、恋愛に全てを投じる人もいるかもしれない。またあるいは、友達作りに勤しみ、一生の友達を得る人もいるだろう。別に無理に派手なことはしなくても、自分の好きなことに好きなように取り組み、自分の世界を広げていけば良いんだ。
でもそれが出来るのはたった3年間だ。そしてそれはもう、始まっている。
私は、中学の時のような、後悔ばかりの高校生活には、絶対にしたくない。
「ねぇ鈴原さん」
「ん、なんだ?」
ゴクリと唾を飲み込んだ。中学校3年分の、勇気を出した。
「この後、帰りに一緒に下着屋さんに寄っていかない?」
鈴原さんが笑った。
「お、敵情視察ってやつか!いいねぇ。確かに、市販のパンツの値段もある程度知っとかないとな!よっしゃ、行こう行こう!」
敵情視察って。そういうわけじゃないけれど。
でもまぁ、それでもいいか。鈴原さんが楽しそうなら。
鈴原さんが教室を出ていく。私もそれについていく。
中学の頃は、友達と帰りにお店に寄るなんて、考えられなかったな。それがまさか、下着屋さんに寄ることになるとは。
私達の高校生活は、まだ始まったばかりだ。