魔法はお前たちの特権じゃない
2014/08/31 投稿
攻略本のないゲームは、一度でも進行ルートを見失ってしまうと困り果てるしかない。だが何かの拍子に改めて、道を見つけることもある。このきっかけがないと永遠に積んでしまう。
「魔法使い、ね」
わざとらしく且つ気づかれないように言うが、彼女らが何かに感づいた様子はない。
「礼音、言っていいの?」
「そんなことより、どうして魔法が通じないの」
「確かに祐希に魔法の効果がないのは気になる……」
頭をフルに使う。この状況で出来ることを考える。そのために必要な知識を探す。この三人に気づかせる有効な方法は、魔法はなんだ。本のページを速読するような感覚で、記憶から有効な魔法を探す。
拘束系魔法、これだ。今までの俺は、見たままの文字を頭の中でイメージして魔法を発動している。記憶の中からそれが出来るのか。疑問と不安に駆られながら、やってみようと決意する。
記憶の中の拘束系の文字列を思い浮かべる。まだ長い文字列を完全に覚えているわけではない。しかしイメージした文字列が次第に鮮明になってくる。そして完全になった瞬間に途切れ、思い浮かべた文字列が弾け飛ぶ感覚を感じる。
「よし、できた」
目の前で何やら話している少女たちに、一瞬間だけ左手を翳す。拘束する範囲は顔を除いた身体の意識的な動き。集中して一定の範囲を拘束する。全身を拘束してしまえば楽なのだが、試したわけではないが心臓や肺などの内蔵の動きまで範囲を広げてしまうと、彼女らは死んでしまうだろう。
「え、ちょ、これ、魔法?!」
「身体、動かな、い!」
「魔法が自分たちだけの特権だと思ってたか?」
そんなはずはない。自分にある能力なら、他人も同じ能力を持っていると考えるべきであり、魔法も例外じゃない。その考えを捨てようとしていた俺が言えた立場ではないが、この二人はあまりも危機管理能力が低すぎる。
「避けたのは、やっぱりお前だけか」
「祐希も魔法使いだなんて、驚いたよ」
その様子に驚いたという感情は見て取れない。そしてどんな考えで、そう言っているのかはわからない。俺の知るこいつは元より謎が多いので気にする程ではないが、思った以上に切れ者であるようだ。
「俺の腕が動いた瞬間。意識操作系の魔法で、お前の認識位置を誤魔化した。どうだ」
俺の使った魔法は、『目視で認識できる全ての物の位置を固定する』という効力がある。何らかの原因で目視できない状況では、魔法は意味を成さない。さらに拘束する物のあるべき本来の位置を間違っている場合にも、効力がないのかも知れない。
「当たりだよ。もしかして祐希って、魔法のエキスパートだったりする?」
「俺の知らない間にお前が一歩左に動いてからだ。あと俺は魔法を使い初めて、まだ一週間も経ってない」
しばらく鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見せつけられ、思い出したかのように無言のまま入部届を叩きつけられる。
「祐希は第二生徒会に入るべきだよ」
「無論そのつもりだ。魔法を知るのに、ここまで適した環境はないからな」
少年は未だ知ることはない。この出来すぎた物語に。用意されたかのようにあった人々に。あるべき場所へと導かれた事実に。
それは、世界が歪んでいるように。彼を巡る因果の規律が動き始める。
これまた遅れましたヽ(;▽;)ノ