私たちは。待ってるだけ
2014/10/25 投稿
あと二十分もすれば五時限目が終わる。第二生徒会部を出た廊下、授業中は人気のない場所である。そこから中央を通って、窓を見ればグラウンドが見える。
「やってる」
授業をサボることはたまにある。魔法は得意だけど、私は勉強が苦手でよく逃げ出す。
「だれ」
グラウンドで交じり合う三つの人影。優しい友人、尊敬する友人、知らない人。高レベルな魔法をいくつも感じるし、ここまで爆発の音なども聞こえる。
中町涼子は目の前の戦いに参加しようとは考えない。相手は愛崎礼音と神崎祐希という異次元の実力を誇る二人を敵にして、ギリギリではあるものの対等な戦いをしている。突撃しても虫くらいにしか思われない。
「……八千っ!」
校舎近くからグラウンドに走って行く友人の姿を見つける。その姿は決意に満ちた表情をしている、と背中が語っているように気がした。大好きな親友が危険に飛び込もうとしている。
「行ける」
窓から下を見下ろして高さを確認。枠に足をかけて飛び出す。
「わぁ~」
当然頭から落ちる途中で魔法を使う。地面から一メートルほどを領域にして、空間干渉魔法で速度を完全に殺す。若干違和感が残るのは仕方ないが、初めてやる方法にしてはうまくできた。
素早く体勢を立て直して、全力疾走で何とかグラウンドに入る寸前で追いつく。
「ダメ。八千。危ない」
「でも二人だって」
「大丈夫」
魔法の知識にまだ疎い彼女にとっては、押されてるように見えるのだろう。しかし中町涼子に言わせれば、二人は完全に優勢に経っている。現在この二人が揃えば、現代最強の魔法使いのタッグが誕生したに等しい。
風理家ほどでないにしろ、魔法を代々受け継いできた家系で育ったこともあったが、これほどの凄い魔法使い同士の戦いを見たことがない。
「どうして?」
「あの二人は、最強だから」
彼女らしからぬ意味不明な理由に、青山八千は首を傾げる。
「とにかく。行かなくていい。部室でお菓子食べよ」
部室に戻れば、鞄にお菓子を入れてある。彼女と一緒にお菓子でも食べていれば、そのうち二人は帰って来てくれる、とそうを思っていた。
ふと屋上を見上げると、見知った顔が一人。どうにもならない時は、どうにかしてくれるだろう。そんなことも思っていた。
「お菓子って、何もしなくて良いの?」
「私たちは。待ってるだけ」
部室に入った瞬間、彼女らのものでない魔法が発動した。そして空間領域を干渉する。
二人に起こった出来事を、グラウンドに居る彼らが知る由もない。
ダブル進行に突入です




