片付かねぇ
2014/10/18 投稿
「たまたま祐希と図書館で会ってね。面白い魔法を研究してるみたいだから、手伝おうかなって話になったんだよ」
面白いほど納得する説明だった。さらに愛崎礼音がこれを口にすることによって、その効果は数倍に跳ね上がる。まるでどこぞの教祖のようだ。
「礼音が手伝いたくなるって……一体、どんな魔法を研究しているんですか?」
「いつか、完成したら教える」
研究者っぽいことを言って、言葉を濁した。
そして土曜日。両親共に昼は仕事に出ている。愛崎は昼過ぎくらいに来るということだったので、異様な緊張感を勝手に漂わせて、朝から散らかった部屋を掃除しているわけだが。
「片付かねぇ」
なにせ起動式を試すのに、大量の紙を床に散らかしてしまっており、これは失敗していようとも捨てるわけにもいかない。もしもの時の参考資料にするからだ。よって、これをまとめる作業に追われて時間を使った。さらに片付ける場所に困ったので、近くの文房具屋でファイルを買ってきて、本棚の本を整理してそこになんとか収納する。
「はぁ」
溜息一つ。そこからホコリを払って、掃除機をかけて、細々した物をきちんと整理し終わった頃には、昼前だった。
「祐希さ、もしかして綺麗好きなのかな。あと、疲れ果ててるように、見えるんだけど」
「あぁ疲れた。とりあえず魔法関連の資料は、そこの本棚にあるファイル全部だ」
「ちょっと多くない?」
ちなみに本を別の机横の棚に並べて、肝心の本棚は黒いファイルで埋め尽くされている。改めて見ると、もうそれはそれは異様な光景だ。
「適当に見ていいぞ。まぁレポートじゃないから、わからないところは質問してくれ」
「じゃあまず、この起動式だけ書いてるのは…………」
試行錯誤を繰り返していたこと、それによって魔法の起動式単位での連結と新魔法を創ることに成功したこと、その過程で不完全な魔法がいくつも産まれたことも大まかには説明した。
愛崎礼音は記憶力が良く、理解力も人よりは早い人種だ。素早くこれを理解したようで、その上で謎だと言う。
「ねぇ、どうやってこの起動式を、導き出したの?」
どうやってって、言われても。
「根性だけど」
「繰り返して、少しずつ変えたって言うのはね、わかるよ。でも元の起動式から、発現する魔法をどうやって予測したのかな」
「…………え?」
言われてみれば、どうしてわかったんだろうか。少なからず、起動式の文字列の傾向から予測した。そう答えようと思って、思い留まる。
「どうしたの、祐希?」
おかしい。確かに発現する魔法はある程度まで予測できる。だが、どうやってだ。このノート二枚分くらいありそうな文字列から、どうやって正確に俺は予測していた。いやそれ以前に、どうして俺は失敗した起動式の改善点がわかるんだ。
「なぁ愛崎」
「どしたの」
「自分の知識を完全に他人に移すって、そんな契約できるのか?」
「私の知る限りの魔法じゃ無理だね。でも似たようなことを、できる魔法なら知ってる」
聞きたくない。しかし俺もこの魔法を知っていた。あの本に書いてあったからだ…………
好意のある人が家に来るってなったら、掃除しますよね




