やっと犯人登場だね
2014/10/15 投稿
綺麗な廃墟と化した図書館では、影と二人の戦いが続いていた。
「おい、キリがないぞ」
「私もそろそろ限界だよ。それにしても凄いね、祐希の魔法。この短時間だけで、全校生徒くらいはいってるよね」
「その倍はいってる思うぞ」
「もしかしてだけどその魔法って、目視範囲じゃなくても機能するの?」
「機能はするけど、精度は落ちるし、制御が難しい」
「その割には、完全に使ってるように見えるんだけどね」
「いや不完全だけど、完全に使っているように、見せてる」
光は不規則な動きをしながらも、湧き出てて襲ってくる影を正確に射抜いている。
「ほんとに数が多いね」
そんなことを言いながらも、ほぼ自らの体術だけで影をなぎ払う愛崎。魔法を入れ込んではいるものの、彼女の身体能力なしでは無傷でいられないだろう。
「そろそろ空間が崩壊しても良いんじゃないか」
「既に人間の限界を超えてるよね」
この図書館は現在、外から内部に干渉できず、中から出ることもできない。つまり何者かが、この場に魔法で閉鎖空間を形成させている。それには莫大な量の維持コストが必要であり、これだけ多くのガーディアンを発生させようものなら、その負担は通常では考えられないものだ。
そうこうしているうちに、影の量が減っていく。新しく生成されなくなったようだ。空間の崩壊の兆候かと思ったのだが。
「戻らないね」
「まだ何か用があるってことじゃないのか」
「何の?」
「俺に聞くな」
この空間に足音が響く。俺たち二人以外のゆっくりとした歩調で、小さな音で存在感を感じさせられる。
「やっと犯人登場だね」
姿はまだ見えない。しかし俺は、薄々は誰なのか直感していた。
「何の御用ですか?」
影の中から姿を現した女性に問いかける。
「その口ぶりでは、私だと知っていたようですね。良かったら、どこで気づいたのか、教えていただけますか?」
言葉に全くと淀みがない。柔らかい雰囲気を醸し出しながらも、言葉からは感情を読み取れず、その一挙一動から何を考えているのかわからない。
「影喰らいは風里家の伝統魔法だそうですね」
あぁそういうことですか。風里家当主で風里和佳の母である彼女は、素直に納得したようだった。
「影喰らいって、影が無くなるんじゃなかったっけ」
そう言って愛崎が足元を見る。そこには確かに違和感のない影がある。故に違和感が生まれた。
「なぁ愛崎、俺の魔法は光を発生させてるだろ?」
「あ、言われてみれば、確かに影の形が変化してない」
「頭が良いとは聞いていましたが、こういうことだったのですね。私には、ただの高校生にしか見えなかったので、娘が過大評価しているのかと思っていました」
美しいほどに普通の笑顔だ。彼女が内心で何を思っているのか不明であり、笑顔の裏に隠された意思を全く読み取れない。……怖い人だ。
明日もお楽しみください。




