いつもの私以上に自信タップリだよね
2014/10/14 投稿
静寂が広がる。何人も拒むことなく浸透していく。
「どうする?」
「私に言わないで」
人気のない図書館の二人きり。まず最悪の状況だ。こんな大きな図書館を隔離するところを考えると、頭の普通な人間の仕業ではない。
「ここをお前の魔法で壊せないのか?」
「エスケープオブウィムプっていう魔法はね。目の前にある魔法の弱いところを切断するんだけど、目的は魔法を形成する核を機能させなくすることなんだよ。ここの魔法みたいに、密度の高い魔法は弱いところを切断しても、いくらでも代用できるんだよね」
「じゃあゆっくり雑談話でもするか?」
「私もそうしようと思ったんだけどね。あれ見て」
俺の向きからは見えなかったが、顔を動かしてみると当然のように存在していた。
「なんだ、あれは」
ゆらゆらと揺れて不鮮明な人型を取る黒い影。即座に生きた人間ではないと直感できる。
「ガーディアンかな」
「それは形成された特定空間が、自分を守護するための魔法だろ」
「閉鎖空間でも使えるんだよ。要は空間の崩壊条件に極当たり前の設定すれば、どんな時でもガーディアンを発生させられる」
「なるほどな。でも襲ってくる気配がないぞ」
「数は増えてるけどね」
こうしている間にも影の数が増えている。増加量は見たところ一定間隔だ。しかし危害を加えてくるような様子はない。
「相手の戦力が整うまで待ってるか?」
「祐希、余裕だと思ったら大間違いだよ。こういう存在が不確かなガーディアンは、凄く有能なんだよ」
「ちゃんと武器持ってるから心配ないぞ」
「いつもの私以上に自信タップリだよね」
そう彼女に言われる程には、俺はワクワクしていた。こんなに高度な魔法空間で守護のガーディアンを相手にできるなら、これ以上の実験場はない。愛崎さえ居なければすぐにでも魔法を使うところだが、彼女も手こずると思うから忠告するはずだ。彼女を守りながら戦うというのは、俺の持つ魔法では不可能に近い。
「お前、あれ相手に戦えるか」
「そんなに多くは無理だけど、一桁までならいけるよ」
「よし、それじゃ先制するぞ」
「ちょっと待って、はっ、何言ってるのよ」
魔法の起動式を頭に思い浮かべる。起動式を複数個準備して、いつでも起動できる状態にする。
「祐希、本気なの!?」
「無き者を去け、シャルード」
無数の蛇の形の影を出現させ、この場の全てのガーディアンを拘束する。
「精霊の名を問え、シャアズ、シャイズ、シャウズ、シャエズ、シャオズ、シャカズ、シャキズ、シャクズ」
名を呼んだ数だけ、光の球体が守るように周りを飛び回る。
「さて、行くぞ」
次の瞬間から光は影を次々と恐ろしいスピードで貫いていき、次の一瞬には四十ほどを消滅させる。大成功だ。俺が考えた通りに魔法が動いている。
「祐希さ、どこでそんな魔法覚えたの?」
愛崎の疑問に答えることはしなかった。彼女がいつもそうするように。
まだまだ長いですよ、この話。




