魔法のステッキを見せてみろ
2014/8/27 投稿
不思議を手に入れて二日が経った。夏休みに向けて期末テストも近いので、どれだけ時間が惜しかろうと行かなくてはならない。まだ数種類の魔法しか使えていないが、朝までずっと魔法を使いまくった結果として、十分にその性質は理解できてきた。
「そのせいで寝不足なんてな」
一コマ目を睡魔と戦いながら切り抜けた。次は負けそうだ。
「眠そうに見えるけど、どうした」
「智勇か。それを聞いてくれるな」
「もしかして先週の話絡みか?」
「そういえば何とかいう実在した魔女の話をしたっけ」
我ながら眠い頭でよく思い出したと思う。
「ウルスラ・サウセイルな。てか、オカルトにハマったのか?」
「いや、ちょっと違う」
現実に触れちゃったから、もうオカルトじゃなくなったんだよ。そんな頭のおかしいことを言う訳もなく。どう言い逃れたものかと考える。
「祐希なんか隠してない?」
「お前いつから居たんだ」
この高校に入学して三ヶ月ほど、隣の席になっている女子。席替えもなくたまに駄弁ったりしてるが、未だに名前を知らない。今の今まで困ったことがないので聞いてもない。智勇が俺を名前で呼ぶのを真似して、呼び捨てしだしたのは最近ことでなく、出会った当日のことだった。
「それで、何を隠してるの」
「……魔法って信じるか?」
「魔法のステッキを見せてくれたら信じよう」
「なんだそりゃ」
彼女の発言に思わず俺たちは吹き出した。
「ははは。確かに振るだけで、超常現象が起こる杖なんて出てきたら、信じるしかないか」
「智勇くんもそう思うよね」
話が一段落したかどうかは判断しづらいが、次の授業が始まりの鐘の電子音が鳴るので、静かに席に着く。隣の彼女と智勇も見れば、真面目に授業を受け始めている。実はあの二人、中間テストの学年順位で高いところに入っている。かく言う俺もだが、まぁ別にいいだろう。
眠さも相まって授業に集中できない。しかし、ただ一つだけ気になっていることがあった。
現実の魔法。この分野に浅学な身である俺の知っている魔法には、漫画でよくある触媒が存在しない。原理は知らないが、今の俺の持っている感覚では、慣れて脳の反応速度が上がればノータイムで魔法が発動できるはずだ。考えが至り、凄いとも感じるが、恐怖さえ覚えた。だって、それは。
杖を振るよりも、もっと簡単に魔法は使えるということなのだから。
放課後。何の部活にも参加しておらず、見学さえしていない俺は校舎を適当に歩いていた。
「次はどこに行ったもんかな」
図書室で魔法に関連する本に目を通したが、特に収穫なし。続いて、生徒会に出向き、部活と同好会の一覧を拝借した。それを頼りに、オカルト同好会、漫画同好会、神話同好会、文学部、文芸部と、次々と探しては見学や体験をさせてもらったが、特に収穫なし。一番それっぽいことをしてるオカルト同好会に、真意がバレないようにそれとなく話を聞いたが、本当にただの同好会のようで、特に収穫なし。気がつけば最終下校時間目前だ。
魔法を使うための本、いわゆるマニュアルがあるということは、別に魔法を使える人間が存在している可能性を考えての行動だったが、無駄足になってしまった。近くにいるかも知れないと踏んでいただけに、魔法を詳しく知る手立てを失ったような気がする。
よく考えれば、別に詳しく知る必要もないのだが、自分でもどうしてここまで知ろうとするのか、全くわからない。それでも一つ言えること。
「知りたいから、知りたい」
ただそれだけだ。そう思うことに理由はない。だが…………
「どうしたもんかなぁ……」
ギリギリ今日の投稿です。