魔法使い殺しの兵器
2014/09/28 投稿
誰もが一生に一度は法律とは、なんと邪魔なんだろうと考えることだろう。まぁ俺の場合は、今はその時ではないと踏みとどまった。
「バレなきゃ犯罪じゃない」
どこかでそんな言葉を聞いた気がするが、それは本当なんだと、現在痛く実感している。
「愛崎、そいつは誰だ」
「ロボット研の人だよ」
「何故に拘束している」
「逃げられると困るからね」
始業式も終わり、学校は来たる体育祭ムード真っ盛りである。まさか裏で学校内誘拐事件が発生しているなど、この場に居ない者が予測できるはずもない。ロボット研でも、用を足しに行ったか帰ってしまったと思われても不思議ないだろう。
「馬鹿かお前。今度また問題を起こしたら、阿木先生の堪忍袋の緒が切れるかも知れないぞ」
「バレなきゃ大丈夫。涼子、部室を閉鎖空間にして外と隔離して」
「わかった」
魔法とは恐ろしいものである。前々から思っていたが、これがあれば完全犯罪など簡単に作り出せるのではないだろうか。いや、決して国家の警察様が無能などと言う訳ではなく、純粋に魔法が強力な道具であると言いたいだけだ。
「僕に何の用なんだ。体育祭の期間中には、こっち文化祭の準備で忙しいんだ」
ロボット研から『愛崎』が拉致って来た男子生徒だが、俺の記憶が正しければ始業式で表彰状を貰っていた人物だ。
「忙しいらしいぞ、愛崎。もう開放したらどうだ?」
「全然取り合ってくれなかったから、誘拐してまで話を聞こうとしてる状態で、解放する方がおかしいよね」
そうだよね、祐希。なんて言って念を押してくる。どうこうしようと言うよりは、簡単な用事を聞いてもらえなかったことに逆上して連れてきたんだろう。…………やっぱり犯罪じゃねぇかよ!
「ねぇ関本くん。コレの使い方教えてくれないかな」
彼女が手に持っているのは、小型の拳銃のような物だ。
「そ、それは今年の展示品の!」
この瞬間に愛崎礼音の犯罪に窃盗追加されてしまった。
「そう勝手に持ってきちゃったの。これってさ、今人気の漫画に出てくる魔法銃を再現したんだったね。ちょっと検索してみたんだけど、この完成度は凄いね。でもこの銃には、たった一つだけ違うところがあるんだよね」
残念ながら俺は流行に乗り遅れてしまっているようで、何の話をしているのか全くわからない。
「僕は完全に再現したんだ。些細な違いはあっても、間違ってるところなんてないはずだ!」
愛崎は慣れたような手つきで、拳銃の弾倉を取り出し、本物かどうか区別のつかない弾丸も取り出す。
「このマガジンと弾丸に書いた起動式だよ。漫画では模様が書いてあるだけだったけど、これは本物の魔法の起動式だよね?」
愛崎が机に広げたマガジンと弾丸。さすがに火薬を入れてはいないようで、カートリッジと呼ぶべきなのか。愛崎がその方面に詳しいそうな雰囲気であるが、こんなことを聞くべき時ではないようだ。
「魔力を吸収する魔法の起動式に、魔力を収束させる魔法の起動式か」
素質、気力、魔力など、どう呼んでも正しいのであるが、これというのは魔法という奇跡というか超常現象を起こす源になる。この二つの魔法は基本的には、魔力を自身で操作できない場合に補助的に使える。
「祐希、ここ見て」
近くで見ると、なるほど。銃身に刻まれた模様も魔法の起動式だったようだ。
「物体に干渉するタイプの加速魔法だな」
普段は全く役にも立たないし、非常に危ない魔法なので俺は試しに鉛筆を投げた上で加速させて、学校のゴミ箱の一つに穴を開けただけだ。ちなみに今では学校の怪談になりそうな勢いで噂が広まっているらしい。
「風里さん。魔力って単体で存在したら、物体になるのか?」
「ただそこに集まっている。それだけでは物理的に干渉できるものにはなりません。しかし使い方によっては、魔法の発動や効力を阻害することも可能です」
「なるほどな。だから愛崎が目をつけたのか」
ここまで強行手段に彼女が出たことも頷くことができる。
「そうだよ、祐希。これは和佳と涼子の家にとっても、危ないけどね。私は、まさに新世代の魔法兵器を見つけたんだよ」
「僕の発明を横取りする気か!?」
一瞬だけ、あぁ居たんだ、と思ってしまった。
「お前が優秀なのはわかった。でもな、こんなのを文化祭で展示した日には、暗殺とかされても文句も言えないぞ」
魔力が収束している物理的な弾丸を、魔法で加速させた上で発射するその意味。発動する魔法や発動した魔法の効力を弱め、さらに圧倒的なスピードの弾丸の被害もしくはその秘められた物理エネルギーの爆発を生む。
現在、部室にかけられている魔法のように閉鎖空間を展開する魔法は、その外部からの干渉を基本的に無力化する。ただしある種の防御バリアになるそれは、魔法的な干渉で崩すことができる。
「この銃は、魔法使い殺しの兵器なんだぞ?」
ある日、突然に時代が進んでいることを認識するのが人間です。




