彼女の意思は硬かった
2014/09/25 投稿
例の事件があった日から、俺は夏休みにも関わらず第二生徒会に出向いており、青山さんの教育係を任されていた。愛崎たちと青山さんたちは既に和解したので、別に仲違いしたというわけではない。
「えっと、次は、どうすれば良いの?」
阿木先生に頼み込んで空き教室を借りて、魔法を発動させる練習中だ。彼女は見た目によらない強い意思を持っているようで、魔法の失敗に対する恐怖を全く感じさせない。
「指先で炎を感じて、それからゆっくりと形を変えてみろ」
驚くことに俺は魔法を教えることに関しては得意なようだった。
目覚めた青山八千に魔法について教えていると、悲壮感漂う様子で保健室に来た愛崎が元気になった彼女を見つけ、しばらくして俺がどうにかしたことを聞いて。
「ねぇ祐希、どうやったの」
そう怖いくらいに問い詰められたが、どうにか魔法で治したことを納得してもらったのだが、その際に教育係を任命されてしまった。青山さんは初対面の時に怖がらせてしまったので、抵抗があるだろうと思っていたら。
「是非、お願いします!」
今になって思ってみれば、あんなことの後でも元気だったのは、強い決意の意思の表れなんだろう。
俺たちの知る常識では、魔法を一から創る技術を持つ者はいない。もっと言えば存在してはならないのだろう。魔法を創始者以外に新しくそれを産み出せる人間は、もはや人間の領域を超えている。
「ゆっくりな」
目の前で炎を操る魔法をぎこちなく使う彼女の真剣さには感心する以外に術がない。彼女が目指す技術を持っていながら、俺はそれを教えることを躊躇っている。
「力になりたいとは思うんだけどなぁ」
「え、十分だけど」
「いや、こっちの話だ。それより炎消えてるぞ」
「あ」
何度も挫けずに挑戦する彼女の姿は、なんだか泣けてくるくらいに健気に思える。ふと時計を見ると一時間ほど経っていた。
「そろそろ休憩にしとくか」
空調の効いた部屋では忘れ気味だが、今は夏の真っ只中であり窓を開けているとはいえ、空調のない部屋で炎を発生させていれば疲労は高まる。その状態で休憩のために戻った、むしろ寒いくらいの第二生徒会はまさに天国と言えた。
「どう。調子」
「とっても良いよ」
中町さんと青山さんは気が合うようで、休憩の度に楽しげに話し合っている。ここ数日愛崎は魔法関係の本を風里さんから借りて読み漁り、風里さんもそれに付き合っている様子だ。何気なく聞いてみると、本格的に魔法を一から創る方法を探し始めたとのことだった。研究テーマを無くしていた秘技的魔法研究部には良いネタだったのだろう。
しかし既に実現させてしまった俺には、攻撃魔法を創るというテーマがある。
「ねぇ、祐希も手伝ってよ」
「勝手にやってろ」
ちょっと日常シーンに戻るかも知れない。




