教育者の失敗と先駆けの苦悩
2014/09/24 発動
人生には落ち着いていられない時間が多くある。連絡を受けて学校に駆けつけ、第二生徒会に出向くと保健室に行く事になる。
「容態はどうなんですか、阿木先生」
まだ見慣れない少女。青山八千はベットに横たわり、苦しげな様子だった。
「良いように見えるか?」
冗談にしても落ち着いているとは言えない。しかし見たところ外傷は左腕だけで、素人の俺にはよくわからない。
「これはどういうことだ」
青山さんに付き添っていた愛崎は顔を上げたが、悔やんでいるように見える。彼女は上辺だけ表情が豊かであるが、ここまで本気で内の感情を前面に出しているのは始めてのことだ。
「八千に魔法を教えてたんだけどね。私のせいで」
そこまで言って口を閉じてしまい、変わりに風里さんが説明を始める。
「青山八千さんには、あなたほどではありませんが才能がありました。私と涼子、礼音は彼女に魔法を教えて始めてすぐに気づいたんです」
「それがどうしてこんなことになったんだ」
「この前の体育館の件で、魔法の連続使用に興味がある湧いたようでしたので、やり方のコツを礼音が教えたんですけれど」
コツを教えたと言うが、実質的には魔法が使えれば後にイメージを崩さず魔法の起動式を展開するだけ、意味さえ理解していれば難しいことはない。
「まさか自分の身体に干渉する魔法を制御するのに失敗したのか」
言葉もなく風里さんが頷く。聞いていると、魔法の制御は難しいことではないと三人とも考えていたこともあり、まさか干渉系統の魔法を暴走させるとは思ってもいなかったとのことだ。幸いにも愛崎が暴走した魔法の大部分を破壊したらしい。
「でもね。まだ魔法の効力が消えないの」
「なるほどな。神経に干渉してるってことか」
冷静を装ってみるが、この間にも青山八千が苦しむ姿は見るに堪えない。すぐにでも自らの知りうる魔法で助けたいとも思う。だが、俺にはそれをするだけの勇気がなかった。
「どうにか出来ないのか?」
「涼子が第二生徒会で頑張ってくれてるよ。普段はロクに喋りもしない子だけど、ここぞっていう時の集中力は並外れてるんだよね」
つまり現状で対象法はない。いや、俺にしかない。
余程のことがなければ、時間が経つのを待っているだけで治る。今までの俺なら自分の立場を優先したんだろうな、なんて思う。
「二人と、先生も第二生徒会の方に行ってください。空間干渉系統の魔法を試します」
ちなみに完全に嘘である。人生で最大で最高の演技をして、皆を保健室から遠ざけて青山八千と二人きりになる。
「青山さん聞こえるか?」
言葉を発する気力もないのだろう。彼女は首を若干だけ縦に振る。その様子を見て、俺はこれから行う必要であるが大それた行為をする覚悟を決める。
「……ごめんなさい!」
精神を魔法の起動式を運用する事だけに集中する。起動式を思い浮かべると、すぐに鮮明になって弾け飛び、それと同時に俺は彼女の顔を右手の平で覆うように掴む。
「在りし道を繋げ、クロートー」
数日前に完成したばかりの魔法を使う。効力が発揮されるかは五分五分であるが、魔法の発動から効力の発動のための条件も整えた。
しばらくして彼女が心地よい寝息を立て始めたのを見て、魔法の成功と助けられたという充実感を感じる。その様子を保健室の外から見ていた人物が居たことなど、俺が知る由もないのは言うまでもない。
この章はここで終了となりまーす。次は新章です。




