魔法の名前は結構どうでも良かった
2014/09/07 投稿
第二生徒会が活動を始めてからしばらく。期末テスト週間終わりの週末が明けた日。今頃は例の人は大会で全力を注いでいるのだろうが、対照的と言っていいほどにヒマ部の部室は暗かった。蛍光灯は光を発している。俺を除いた数人の雰囲気が驚くほどに暗いのだ。
「……祐希くん。どうしよ。全然出来なかった」
「……私も凄く心配でなりません」
愚痴を聞くつもりはないし、それを聞いて俺にはどうすることもできない。もうテストは終わっている。慰めようにも何と声を掛けるべきかわからない。……愛崎はどこへ行った。
「頑張ったんだろ。なら心配しても同じだって」
なんて適当なことを言っていると。俺と女子二人という少し前までは羨ましいなどと思っていた空間が、実はとんでもなく気まずい場所であることを認識させられた。
「テストお疲れ様ー。みんな揃ってるね」
ちなみにテスト期間は活動していなかったので、部室で会うのはほぼ一週間ぶりだ。
「ご機嫌だな」
「今回凄い調子よくてね。祐希から主席の座を奪えるかも知れないんだよ!」
引きずり下ろす本人の前でそれを言うのはどうかと思うが、今日はいつもに比べて明るい。しかし不思議な雰囲気を漂わせているのは変わりない。
「それはないから安心しろ。また依頼来てんぞ」
入口のすぐ近くに置かれた机に広げられた数個の紙。第二生徒会は、一週間ほど前から依頼を受け取る際には手渡しなので、各々が受けた依頼のメモを一箇所に集めることになった。数分前に。
「あ、ここに置くことにしたんだ」
決定されたその場にいなかった彼女は、言いながら依頼書の一つを手に取る。よくわからないが、それは俺に渡される。メモには、魔法を教えてください。
「それは祐希が行ってね」
「俺より他が適してると思うんだが」
「私は専門じゃないし」
この前に聞いた話では、それぞれ俺を除く三人は得意とする魔法の傾向があるようで、俺のように全てに慣れようとしているわけではないらしい。風里さんは相手に干渉する系統、中町さんは空間に干渉する系統という感じらしい。
「そういえば、お前はどんな魔法が専門なんだ」
うーん。見ると唸りながら考え込んでいる。
「一応は、対抗魔法になるのかな」
「対抗魔法は風里さんに聞け、とか言ってなかったか?」
以前にその話をした時には何も言っていなかったはずだ。それに対抗魔法は魔法の種類であって、魔法による効力の系統ではない。対抗魔法が得意となると、あらゆる系統の効力を持つ魔法への干渉を行えるということになる。
「礼音の魔法は、全ての魔法を破壊する効力もつ、特殊な魔法なんです」
いつの間にか風里さんが、普段通りに戻っていた。
「私の一族でも誰一人として、発動後に制御できなかった魔法です。名前はありませんでしたので、礼音がエスケープオブウィムプと名付けました」
「名前って勝手に付けても良かったのか」
「別に名前は個人で違ったりしても良いんです。付けた本人が魔法をイメージできる名前なら何でも良いんですが、礼音は実力を認めていますので一族の共通の名前として採用しました」
謎の多いやつだとは思ってたが、なにげに凄いんだなこいつ。そう思いながら、また蛍光灯の交換か何かだろう。道具の準備をしている愛崎を見ていると、さっさと道具一式を持って部室を出て行ってしまった。
「俺も行くか」
よく見ると依頼人はオカルト同好会と書かれていた。何か根拠があるわけではないが、面倒くさそう。
日常シーンが長いような気がしなくもないですが…………いや、長いですね。




