覚えても教えるのは難しい
2014/09/04 投稿
結果から言うと、俺は教師には向いてない。自分なりにどう教えても、聞いている方が理解できていないようだった。
「最初から愛崎に教えてもらえば良かっただろ」
「祐希くん。教科書に書いてあることしか、言わないから」
そんなジト目で見られる覚えはない。筆記テストのある科目は、基本的に教科書を見ればわかる。今更だが、それが出来ないから困ってるのか。
「他に何言えってんだ」
「祐希には無理そうだから、私が変わるよ。その代わりに祐希はこれ解いといて」
「あぁ、わかった……なんか難しいな、これ」
数学と物理の問題が五問ほど。数分で解けるだろうと思ったが、思いのほか難しい。
「和佳、涼子はこっち覚えて。覚えたら気合で問題解いて…………」
愛先が隣で強烈なカリスマ性を発揮しているのを横目に見ながら、答えを書き進めているとあることに気づく。
「なぁ魔法で、記憶に知識を詰め込むようなのってないのか?」
一斉に絶望に満ちた顔で二人が振り返る。すっごい怖いんだが。
「あったら苦労しないです」
「ない」
「祐希探してきてよ」
「お前だけ無茶を言いすぎた!」
以前に記憶の定着を促す魔法がないかと探したが、結局見つからなかった。この三人が知らないのなら、部室にある本の中にもその系統の魔法の知識はない可能性が高い。それにしても難しいな、この問題。
そうこうしているうちに愛崎のカリスマ性で、二人は大体の苦手科目を理解できたようで、俺も時を同じくして問題を解き終わった。
「おぉ祐希凄いね。これ有名大学の入試問題なのに」
「道理で難しいと思ったわ!」
所々に意味のわからない応用がいるとは思っていたが、それも当たり前というものだろう。
「学年主席。さすが。でも教えるのは下手」
「悪かったな」
「それでその答えあってるんですか?」
そんなことはどうでも良いだろうに、風里さんが聞く。愛崎が鞄から取り出した参考書と照らし合わせる。
「うわぁ、全問正解だ……」
「うわぁってなんだよ、うわぁって」
愛崎が本気で引いてる。珍しいと言うか、初めて見た。
「まぁいい。俺は先に帰るぞ」
今日俺はどうしてここに来たのか、と思いながら出口に手を掛けようとした時。頭の中が反応し、魔法を感知した。干渉系統。精神に干渉するタイプ。使用者は。
「…………中町さん、何のつもり?」
部室にある本棚の本を何度も読みあさったのだ。それなりに魔法を感知する技術も手段も多くなっているし、識別から使用者の特定まで可能になったことは大きな進歩だと言える。
「祐希。涼子でいい。あと、私じゃない」
そう言って指を差される。それが俺に向けられたものでなく、扉の向こう側にいる人物であったことに気づくのに、時間は必要としなかった。
そして気づいて驚く。自分だけが中町涼子に向き直っており、他は全員が扉の方に顔を向けていた。魔法は確かに中町涼子を使用者と特定したが、これが偽装された結果であること、それに気づいていなかったのは俺だけであり、実力の差を思い知らされる。
「阿木先生ーどうかしましたかー?」
開き戸を開けて入ってきたのは、第二生徒会または秘技的魔法研究部、通称ヒマ部の顧問だ。
「ちゃんとやってるか見に来ただけだよ。それじゃ」
本当にそれだけだったんだろう。すぐに出て行って、廊下を歩く音が遠ざかっていった。
ほんとに何で来たんだろう…………
展開に持って行けなくて困ってるのは秘密です。




