お前が教えてやれ、俺は帰る
2014/09/02 投稿
第二生徒会に入って数週間が過ぎた。期末テストの対策に追われる者も居れば、そんなことおくびにも出さずアルバイトに勤しむ者とが別れる季節である。
「智勇はテストどうすんだ?」
「お前と違っていつも通りだよ」
教室の飽きてきそうで飽きないいつもの風景。この時期は少なからず、他の仲良しグループでも、テストの話題が蔓延っているようだ。
「そういえば祐希、部活に入ったって聞いたけど。ほんとなのか」
「驚いたか?」
「そりゃあのお前が部活に入るって聞いたら、同期がみんなして驚くだろうよ」
智勇とは、実は中学生からの付き合いだ。たまたま同じ中学校になって、二人とも家から近い進学先を選んだ結果として、高校も一緒というわけだ。
「そうだろうな」
俺の出身中学は県内じゃ有名な文化系の部活動が盛んなところだった。勉強が好きなわけではなかったが、皆で騒いで部活に時間を注ぎ込みたいタイプでもなかったので、必然的に俺は帰宅部だった。それだけでも中学では少数派の存在で、故に放課後には若干の場違いを感じざるを得なかった。
「数研とかクイズ研の奴らは特に誘ってたろ。驚いてたぜ」
「お前、話したのかよ」
面倒だな、と感じながらも記憶が蘇る。中学に入り新しくできた友人、目の前に居る智勇のことだが。こいつに付き添って説明を受けてる間に、クイズ研の部室の壁に貼ってあったロジック問題を解いてしまったところから、勧誘の地獄が始まった。俺の覚えてる最も古い記憶だ。
あまり思い出したくない。でも中学の話をすると思い出してしまう。俺は実の両親を知らないし、小学校までを育ててくれたという前の育ての親のことも知らない。正確には思い出せない。ある時を境にして、記憶が蘇らないのだ。
「じゃあな」
放課後。友人に一言だけ投げて、部室に向かう。何も考えないようにして。さっきまで何を考えていたのかを思い出さないように。
ある日。俺は部活に毎日出席していたわけではなかったが、今日は初めて愛崎に来るように言われた。教室でよく話しているが部活に呼ばれたのは、これが初めてである。
「それで、何のようだ」
来たい時に来る俺とは違って、他の三人は来れば居る。
「実は和佳と涼子って、成績すっごい悪いの。だから勉強教えて」
ついでに私も。なんて教えてもらう必要もないのに、ニヤニヤしながら言われる。なんでそんなに楽しそうなんだよ。
「愛崎は成績上位者だろ。お前が教えてやれ、俺は帰る」
出口に手を掛けると時を同じくして服を掴まれる。
「祐希くん。教えて」
「愛崎に教えてもらった方がやりやすいだろ?」
まだそんなに仲良くもなってない奴より、仲の良い友達に教えてもらう方がやりやすいのは当然だろう。
「阿木先生言ってた。神崎祐希。学年主席」
「完全に職権乱用だろ、あの先生……」
まだ導入部分ですが、これからもよろしくお願いします。




