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何故かその日は冴えていた

2014/08/24 初投稿

 魔女は実在した。ヨーロッパ中世の末に宗教的に『魔女』という概念が生まれ、魔女狩りの最盛期が終わって年月が過ぎた。こことは違う世界で、魔法を使う女性が悪を成敗する話が人気になるような時代が来た。現代に神を崇拝せず、欲に走った者を魔女裁判にかける文化は見なくなった。ダイナミックな魔法でドンパチをやっていた時代があったかは知らない。今となっては地味な科学者か政治家だったのかさえわからない。

 しかし、確かに『魔女』と呼ばれた人物は存在した。

「なぁ。魔女っていると思うか」

 読んでいた本を片手にフラフラと振る。

「何、祐希(ゆうき)。その本にでも書いてあったの……それ、都市伝説のやつ?」

 もしかして実録!?世界の都市伝説傑作集!!。なんて見え隠れする文字から察するにそういう類いであることは明白であった。

「そうなんだけどさ。一つだけ異様に気になって」

「どれ」

 男女が同じ本に肩を寄せ合っている様は仲睦まじく見えていることだろう。

「確かに。魔女は実在するってやつだけ、すっごい細かく書いてる」

「魔女は確かに実在した」

 背後に聞いた声。隣で熱心に開かれたページを読む彼女は振り向かなかった。

智勇(さとる)、それ詳しく」

「さっきちょっと聞いて調べた」

 スマホの画面に目を落としながら、声にはその素振りを見せない。

「ウルスラ・サウセイル。魔女の子として生まれて、幼いころから魔女としての才能を発揮していたんだと」

「へー」

 素直に頷いた。

「ま、魔法とかは知らねぇけど」

 智勇が言う魔法は漫画でよくある派手なのを想像してるんだろう。オカルトの存在に否定的な奴ほど、そういう空想をしたがる。


 その日に学校から帰り、ネットでヨーロッパとか魔女狩りとか検索してると、一人の魔女が気になった。名前はアリス・キテラ。

 次々と夫に死なれ財産を持ったことにより妬みから魔女とされた。彼女は魔法の秘薬などという謎の薬の話しかヒットせず、想像していた魔女のイメージとは違っていた。さらに詳しく調べようとしていると、一通のメッセージを知らせる音が聞こえたので、スマホに目を落とした。

「……え」

 誰でも知っていて、誰もが使っているアプリ。知らない相手からのメッセージもないわけではない。大抵は出会い目的だ。今になって考えると違和感を持つべきだった。そう、まるで魔法のようだと。

 あなたは魔女を信じる?

 たったこれだけ。新手の宗教の勧誘かとも思いながら、返信すべきか迷った。いや、普通なら返信しない。迷うということ自体が異常だった。

「魔女と呼ばれた人間が居たことは信じる」

 アリス・キテラは魔女か?

「哀れで強い人間だ」

 あなたは魔法が欲しいか?

「魔法をあんたがくれるのか?」

 全てを捨てる覚悟があるのなら、あなたに魔法をあげよう。

 俺の好奇心は人より大きい方だったのかも知れない。欲しい。何故かそう返信していた。ちょっと叶わない夢を見たという甘さもなかったとは言わない。少しの間だけ返信が来なかった。改めて確認すると、相手の名前はアリス・カイテラー。しばらく待っても反応がなく、やっぱりただの悪戯と思おうとしていた矢先のことだ。

「ん?」

 素早い反応で通知音が鳴ってすぐにメッセージを確認した。……目線をスマホから外せなかった。

 あなたは目の前にある質問に答えられる?

 今日の俺は冴えている。これだけで意味がわかってしまった。簡単なことだ。俺は今、顔を下に向けているわけではない。完全に視野をスマホだけを認識するように努めすぎ、背後にあるパソコンの画面が全く目に入っていなかった。何も考えないようにしながら、恐る恐るスマホを退け、そのまま机に置いた。

「…………」

 この時に感じた感情はそれまでの人生で感じたことのないものだった。怖くて有名なホラー映画を

見た時でも、こんな恐怖に似た何かを感じたことはない。怖さと期待が入り混じったような感じだ。そして気づけば、YESと返事をしていた。

 神崎祐希(かみさきゆうき)。あなたはあなたを捨てても、魔法使いになりたいですか?

「何も起こらない」

 そう思って待っていると、スマホに通知を知らせる音が鳴った。

「え、なんだよこれ」

 非日常的な事態に遭遇しても人間はここまで冷静で居られるものなんだ。この時、初めて知ることになった。

 さっき机に置いたときには何もなかった。いつの間にかスマホの上に薬のビンのようなものが置かれていたのを見つけ、手に取ってみると、ゲームでよくある青ポーションのような形と色をしていた。思わず飲んでみようかと思ったが、とりあえず左持ち替えて、スマホを確認する。

 それを飲め。

「驚くほど単純だな」

 一抹のというか、全力で不安を感じながらもビンの中身を飲むべきか。しばらく熟考していると。

 飲んだ?

 なんて催促された。

「よし」

 一気に飲み干した。甘い香りと味が口いっぱいに広がり、一瞬で消えた。さっきまでと比べても、特に変化はない。ここまで来ても巧妙な悪戯だろうかと思うほどには拍子抜けだったが。飲み干したと返事をした。

 すぐに以下を読め、と文章が送られてきた。いわゆる呪文なのだろうかと思い、半信半疑ながらも付き合うことにしたのだが。

「……って、読めねぇよ!」

 説明するまでもないが、俺は一般的な日本人だ。ある程度の日本語は読める。だが読むのを諦めた。

 スクロールした先にあったのは、俺には難しすぎる英語の長い羅列だった。

続きが気になる程度に楽しんでくださった方は是非に次もお願いします。

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