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短編まとめ場

砂の星の回転劇

作者: 水澄水蜜

 初めての短編投稿します。

 この小説を読んでくすりとでもしていただけたら幸いです。

 この世界には、世界を救った古代兵器の物語がある。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 吹き荒れる砂塵の中、一人の男が延々と穴を掘っていた。

 この世界は、ほとんどが砂に覆われている。

 そんな世界の片隅で、考古学者であるこの男は太古に失われた遺跡を発掘しようと地道に砂を掘り起こしていたのである。


 かれこれ一月は続けているだろうか。

 しかし、やまぬ砂塵の所為で作業は一向に進まなかった。掘っても掘ってもすぐに穴は砂に隠されてしまう。


 しかし、今日は少しだけ希望が持てた。

 吹き荒れる砂塵はいつものものよりも弱く、穴も普段より深く掘れたのだ。


 今日こそは。


 今までよりも目標に近づけたことで、男はいっそう張り切った。

 残されていた資料から、過去この場所に巨大な建造物が建っていたことは明らかなのだ。

 もう少し掘れば、なにか見つかるかもしれない。


 腕に力を込めて、男は始めてみる砂の層をシャベルで突き刺した。


 ガキィィィン・・・・・・


 砂でも石でもない、なにかもっと硬いものがシャベルの先に当たった感触がした。

 金属同士がぶつかるような鈍い音が砂の中から聞こえて、急速に男の期待は膨らんだ。

 今度は傷つけないようにとそっと周りの砂を丁寧に排除していく。

 少しずつではあったが、その形が見えてきた。


 人型の下半身。

 金属で出来たそれは現代ではまるで見たこともないような光沢を持った材質で作られていた。

 おそらくは古代の人形である。


 きっとこの下には残りの半分、つまり、人型の上半身が埋まっているであろう。


 早く見てみたいと、男は思った。

 そしてまた手早くシャベルで砂を除けていく。


 だが、期待に気持ちが昂ぶっていたのがいけなかったのだろう。


 男はシャベルを持ち上げたときに、砂に足をとられてバランスを崩してしまった。

 倒れまいと、シャベルを地面に突き刺してバランスをとろうとする。


 それがいけなかった。


 シャベルの先端は半分外気にさらされていた人形の下半身の中央、つまり人であるところの股間部分に突き刺さった。


 空気が震える。


「アーーーーーーーーーーーーーーッ!」


 これが完全自立型の古代兵器として生まれ、二度と日の目を見ることのなかったはずの人形の新たな始まり。

 識別番号38-TAN・・・・・・通称ミヤたんの二度目の目覚めであった。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「ふむ、38-TAN。お主には遺跡の中から掘り起こされる前の記憶がないということだな」


 いくつかの簡単な質問のあとに、白ひげが頬から顎までを満遍なく覆っている白衣の男――――ジェシル教授はそう結論付けた。


「ハイ、デスガコノ『ドリル』ノ使イ方ダケハハッキリト覚エテイマス」


 あまり抑揚のない声で38-TAN――――ミヤたんはそう言って自らの股間に生えているドリルを指差した。


「ワシはお主の身体を形成しているその合金が気になるの。何せ資料にも残っていない上に今は存在しないからの。ワシが今まで見てきたどんな金属よりも硬い。おまけに、ドリル部分だけとはいえその形状さえも自由自在なのだからな」


 ミヤたんを合成している金属は今の世界には無いものだった。そしてその硬度も、想像することさえも難しいような時代から現代までずっと砂の中にあって傷一つ付いていないのだから。

 長年生きた教授でさえも驚くのは当たり前であると言えよう。


 しかし、いくら金属の身体とはいえ股間をまじまじ見るのは如何なものだろうか。

 おまけに時折「ふーむ」などとつぶやいているのだ。傍から見れば股間部分に顔を近づけて何かを考えている変態だ。


「お主が見つかった遺跡は現在も発掘が続けられておる。この研究所からだと少し遠いが今度一緒に行ってみようではないか。もしかしたら記憶も戻るかもしれないしのう」


「ヨロシケレバ、ゼヒ」


「まあ今はそれはおいといて、せっかくだからその・・・・・・身体能力も調べてみたいのだがいいかの?」


 さすがに自立型で思考もするミヤたんに戦闘能力を調べさせてくれというのは失礼だと思ったのか教授は少しだけ言葉を変えて尋ねた。


 ミヤたんもそれを理解していたが、自分の記憶が無い以上少しでも手がかりになるのならと考えて肯定する。


「では、せわしなくて悪いが明日にでもいいかのう?」


 教授の問いかけにミヤたんは頷く。

 その答えに満足したのか教授は助手たちを連れて研究室を出て行った。


 一人取り残されたミヤたんだが、この研究室を当面の住居として借りていた。

 身体はほとんどが金属なので別に住居も何も要らないのだが、断るのも悪いと思いせっかくなので借りている。


 食事に関しては、あらかじめ必要ないと告げているので問題は無い。

 ミヤたんは自分でも『便利な身体だなぁ』と勝手に思考していた。


 しばらくすると思考にも飽きて、用意されていた机の椅子になんとなく腰掛けてみる。

 機械なので立っていても疲れはしないのだが、なんとなくこの方が落ち着くのだ。


「フゥ・・・・・・」


 訂正。機械でも疲れはするようだ。

 それかただオッサンくさいだけなのかもしれない。


 そんなことをしていると、研究室の扉が開いた。

 ミヤたんは教授が何か忘れ物でもしたのではないだろうかと考えたが、入り口のドアのほうへ目を向けるとそこには少女が立っていた。


 まだ十歳にも満たないであろう幼い少女だ。

 ショートカットの黒髪の両端を水色の紐で縛り、かなり動きやすそうな服装をしている。

 その姿は髪を縛っていなければ少年にも見えた。


 そんな少女が目を輝かせてミヤたんを見ているのだ。


「わぁ! 本物のロボットだ! かっけー」


 口調もやけに男の子くさい。


「ドウシタノデスカ? コンナ所ニ一人オ散歩デスカ?」


「うおおおおおー! しゃべったー! ミヤたん、すげー!」


 ミヤたんにはこの子供のテンションは少しついていきがたいものがあった。


「すげー! お父ちゃんよりでっけぇのついてるー!」


「ドコヲ見テ言ッテイルノデスカ?」


「それはもちろんち・・・・・・」


「ソレ以上口ニシテハイケマセンヨ」


「じゃあもろち・・・・・・」


「ソレモ駄目デス。アト訂正スルトコレハドリルデス」


 ミヤたんに止められて少し落ち込む少女。

 この後も幾度か問答を続けていたらこの少女の名前がチャンポであることが分かった。

 仮にも女の子の名前にこれはひどい。ミヤたんもあまり人の名前にケチをつけるのはよくないと思ったが、この名前をつけた親は何を考えていたのだろうか。


「あたしの名前はじいちゃんが付けてくれたんだ」


 親ではなかった。だが間違いなくクソジジイの類であることは間違いない。


「あたしのじいちゃん偉いんだぞ。この研究所の局長やってるんだ」


 つまり、先ほどまでミヤたんと関わっていた教授のことのようだ。

 ミヤたんの中で彼の評価が一気に落ちた。


「でもさぁ、何でちん・・・・・・」


「やめなさい」


「うおっ! なんかさっきと違って流暢にしゃべってるし! と、それはそうとして何で言っちゃ駄目なんだ?」


「女ノ子ナンデスカラ少シハ恥ズカシガリマショウヨ」


「あたしの父ちゃんよりおっきい癖に小さいこと言うんだな」


 この瞬間、ミヤたんの中でこの少女は『クソガキ』に分類された。


「ところでさ」


「ナンデショウ?」


「そのドリル、ちょっと触らせて」


 無言でミヤたんは自分のドリルの形状を変形、できうる限り最小の大きさまでドリルを縮めた。

 もう至近距離で虫眼鏡でも使わないと見えないくらいだろう。


「あー! とれたー! ミヤたんのちん・・・・・・とれたー! 女になったー!」


 チャンポもさっき注意されたことくらいは守れるのだろう。

 けれど、その口の悪さと恥じらいの無さはいただけなかった。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 後日実験により判明したミヤたんの身体能力は、現存する人形やロボットのスペックを大きく上回るものだった。

 実験用に用意された厚さ五メートルの鉄板をたやすく貫く股間のドリル。

 移動速度も圧倒的で、既存のロボットとの模擬戦闘では戦闘開始から二秒とたたずに背後を取ってしまった。


 けれどそれは戦闘特化ともいえるミヤたんの能力のほんの一部で、研究所ですぐに用意できるものではミヤたんの股間のドリルおよびミヤたんの能力は限界が見えなかったのである。


 研究所の人間はクソジジイ以外は全員が戦慄していた。

 唯一安心できる部分といえば、ミヤたんが明確に人の敵ではないということだろう。


 クソジジイはといえば、孫――――つまりチャンポと戯れていた。その内容は大体が「ミヤたんはすごいなー」とか「股間のドリルもでかいしなー」とか「じいちゃんも若いころはあれくらいおっきかったんだぞー」とかいう会話だった。

 ミヤたんは、自分の股間のドリル(デフォルトサイズ)をちら見して、そのあとクソジジイを見比べて、「ソレは無いだろうな」と内心勝ち誇っていた。

 ドリルは記憶の無いミヤたんの、唯一の自慢できる部分でもあった。


 しかし、彼らと関わるとミヤたんもつられて精神年齢が幼くなるようである。

 

 実験後、住居としてミヤたんが借りている研究室に戻るとメイド服を着た女性型のロボが一体微動だにせずまっすぐに立っていた。


「私は38-TAN様の身の回りの世話をするように配備されたメイドです。38-TAN様にあわせて従者もロボのほうがいいという主様のご配慮にございます」


 主様というのは、教授クソジジイのことらしい。

 ちなみに、このメイドも彼が作ったようだ。


「別ニ気ヲ使ワナクテモ大丈夫デスヨ。身ノ回リノコトハ自分デヤレマスシ」


「ヤレるのでしたらせめて私にもそのお手伝いをさせてください」


「ナンデショウ・・・・・・微妙ニイントネーションガ違ウ気ガスルノデスガ・・・・・・」


「気のせいです。もしくは気の迷いです。私としては迷っちゃってくれても一向に構いませんので、いやむしろヤっていただけるのならすごく嬉しいのです」


 このカラクリメイドの言葉にミヤたんは確信した。

 この研究所は碌でもないところだと。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 それは唐突に訪れた。


 重低音とともに大地が揺れ、直後に研究所の窓ガラスがいっせいに割れた。


「伏せるんじゃ!」


 いち早く教授が脇にいたチャンポの頭に手を当てて覆いかぶさるように床に丸くなる。幸い窓からは距離があったので二人に割れたガラスが降り注ぐという事はなく、怪我もなかったようだ。


 地震、ではない。

 明らかに揺れ方が違った。どちらかといえば、近くで爆弾が爆発したかのような衝撃だった。


「私が外を見てきます。主様も38-TAN様もそこにいてくださいませ。チャンポ様、決して動いてはいけませんよ」


 ミヤたんたちの周りに危険物がないことを確認したメイドはそう言うと外へと向かっていく。


 一瞬の静寂の後、チャンポが口を開いた。


「じいちゃん、ミヤたん。何があったんだ? 地震か?」


「いや、違うと思うぞ。地震ではなくまた違った揺れかたじゃった」


 この教授、クソジジイだが伊達に教授を名乗ってはいない。緊張感に満たされた室内で場違いながらもミヤたんはそんなことを考えていた。


 ばたん!


 外から戻ってきたメイドが焦ったように扉を開ける。

 創造物である彼女がここまで取り乱す出来事。

 いやな予感がミヤたんの脳裏をよぎる。


「主様! 外に! 巨大な建造物が!」


 メイドの言葉を聴いて、全員が研究所の外へと向かう。


 そこにあったのは、想像以上の巨大さを持っていた。


 巨人――――そう呼ぶのが一番しっくり来る。


 建造物というよりも『人』の形をした圧倒的質量がその場所に立っていた。

 その全身は銀色に輝いていて、質感は金属といった様子。

 メイドが建造物と判断したのもそのためだろう。


 先ほどの揺れはこの巨人が起こしたものだろう。


 その巨大な体躯の肩より上の部分は砂嵐に隠れて見えない。

 雲の変わりに砂塵が空を覆っているこの世界において、はるか上空は創造でしか補うことのできない世界だ。


 それを超える大きさのもの。

 人々には、得体の知れない恐怖でしかない。


 教授が叫んだ。


「あれは、ゴーレムじゃあぁぁぁ!」


「ゴーレムって、じいちゃん、あの絵本の中の?」


 チャンポが教授の腕の中で『ゴーレム』と呼ばれた巨大な人型の建造物を見上げながら器用に首をかしげる。


「わしも、御伽噺かと思っていた・・・・・・あれが本物であれば、この世界は滅びる」


 ミヤたんの発掘された遺跡、それだけの文明を滅ぼした存在が御伽噺として残っている。

 ――――それがゴーレム。


 圧倒的な存在として作り出されたそのゴーレムは、たった一度の暴走により自らを作り出した文明を滅ぼしてしまったのだ。


「あの方角はミヤたんの眠っていた遺跡のある方角じゃ。発掘作業を続けていたのだ。何かの拍子にあれを目覚めさせてしまったのかもしれぬ・・・・・・」


 教授の声には力がない。

 己の想像の域を超えるゴーレムに圧倒されてしまっているのだ。


 だが、ミヤたんはそんなことをまったく聞いていなかった。


 あの巨人を目にした瞬間、まるで回路がつながったかのようにすべての記憶を取り戻していたのだ。


 ――――自分はあの巨人を倒すためにいる、と。


 ゴーレムの対抗策として作られたミヤたん。

 だが、起動したときには時すでに遅く、ミヤたんを作った文明はゴーレムに滅ぼされてしまっていた。また、ゴーレムも文明を滅ぼしたことによってその活動を停止し、自ら地下に潜っていってしまった後だった。


 存在意義を失ったミヤたん。

 だが、次があればそのときは必ずゴーレムよりも早く目覚めようとゴーレムの埋まった所の上に自らを沈めた。


 長い年月。

 新たな文明が生まれ、ミヤたんは再度目覚めた。

 過去の因縁も持ち込んで。


 ならば、本懐を果たそう。


 ミヤたんは、そう決意した。


「教授、チャンポ、ココデジットシテイテクダサイ」


「ミヤたん、いくらお主が古代文明のロボットとはいえ、あんな巨大なゴーレムに勝てるわけがなかろう!」


「ミヤたん、行くなよ!」


「メイドサン」


「はい、何でしょう? 死地に赴く前にヤりたいのですか?」


「貴女ハブレマセンネ・・・・・・コノ二人ヲチョット抑エテイテクダサイ」


「それは出来かねます。主様は私の創造主さまでございますから」


 こんなときばかり、メイドはまじめだ。


「ソレデハ、二人ニ危険ガ無イヨウニ安全ナ場所ニ避難シテイテクダサイ」


「了解いたしました」


 ぺこりと頭を下げるメイドにミヤたんは満足し、地面をけった。

 向かうは、自分の目覚めた遺跡。

 目標物はあの巨大なゴーレムだ。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ミヤたんがゴーレムの真下まで来てその巨体を見上げると、それは遠くから見た以上の威圧感を放っていた。

 これが動き出せば、現在の文明など文字通り紙のようにぺしゃんこに潰されてしまうだろう。


 ミヤたんの武装は、股間のドリルひとつ。

 たったこれだけで、この巨大なゴーレムを破壊しなければならない。


 だが、ミヤたんに思案している時間は無かった。


 ゴーレムの右足がゆっくりと持ち上がっていく。

 活動を始めてしまったのだ。


 ミヤたんは覚悟を決めた。

 自分がこのゴーレムを倒すために生まれたのであれば、それを信じるしかない。

 股間のドリルが、ゴーレムを倒す武器になるのだ。


 硬度は十分。

 後は大きさだ。


 ミヤたん自身も、大きさや形が自由自在に操れるこのドリルの限界を試したことは無かった。

 出たとこ勝負になるが、今はその身に眠っているポテンシャルを信じるしかない。


 ミヤたんは大きく地をけった。


 そのままゴーレムの右足の指先まで軽々と跳躍すると、ふくらはぎ、脛、太ももとわずかな凹凸を頼りにしてゴーレムの身体の本体まで駆け上がる。


 あの巨体は外側からは壊せそうも無い。

 ならば内側から、全力で破壊する。


「オオオオオオオオオオオオ!」


 ゴーレムの、人であれば尻の部分。

 二足歩行であるがゆえに、身体の構成上どうしても薄くなるそこへミヤたんはドリルを思いっきりぶち込んだ。


 赤く光る火花が散った。


 ミヤたんのドリルは先っぽが突き刺さった状態から少しずつそのドリルを大きくしていく。

 着々とドリルはゴーレムの身体を削っているようだ。

 ドリルの大きさも、すでにミヤたんの体躯の五倍は大きくなっているがまだ限界は見えない。


 まだいける。


 ミヤたんは確信した。


 ドリルは大きくなるごとにその威力を増し、ゴーレムの身体を内部から侵食していく。

 しかし途中で自分と同じくらいの大きさの小型のゴーレムにドリルの先端を受け止められてしまった。回転こそ死んでいないものの、その威力はだいぶ落ちている。


 小型ゴーレムの先には、この巨大ゴーレムの心臓部分と思われる赤い核が鈍く光っていた。

 小型のゴーレムは、明らかに今までと違う金属で作られていて、硬度も大型のゴーレムとは段違いだった。


 ここが山場だ。


 ミヤたんは全身全霊をこめて、股間のドリルに力を注ぐ。


「ウオオオオオオオオオオォォォ!」


 ぴしり。

 ゴーレムに一筋のひびが入ったと思うと、ミヤたんのドリルによって一瞬で砕け散った。


 ドリルはその勢いを殺さずに赤い核を貫く。

 さらに巨大さと勢いを増したドリルは、小型ゴーレムと比べてやわらかい巨大ゴーレムの身体をたやすくぶち抜いてゆく。


 ドリルの大きさはすでに巨大ゴーレムの足と同じくらいのサイズに匹敵していた。


 バン! と、音とともにドリルの先端が急に軽くなる。

 ゴーレムの頭部分を突き抜けたのだ。


 ミヤたんのドリルはその勢いを失うことなく、巨大ゴーレムを突き抜けて上空へと舞い上がる。

 その回転の余波は強風とともに巻き上げられている砂塵を吹き飛ばし、ミヤたんの周囲一帯が穴が開いたようにぽっかりと円形に広がっていた。


「アーーーーーーッ!」


 巨大ゴーレムの最初で最後の叫びが、砂のなくなった大空に木霊した。




  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 黒髪の老婆が、暖炉の前で孫と思しき少年に何かを語っていた。


「そのとき私は生まれて初めて、空というものを見た。澄んだ青色が、明るい光が、そのすべてが幻想的だったんだよ」


「チャンポばあちゃん。俺も空を見てみたい。いつかあの砂の上にいけるロボットを作るんだ」


「ふふ、将来は私のおじいちゃんみたいな研究者を目指すのか。そのときは私も一緒に連れてっておくれ」


 少年が、ふと思い出したように付け加える。


「なあチャンポばあちゃん、そのミヤたんってロボットはどこにいったんだ?」


「ミヤたんは、地下の奥深くにもぐっていってしまった。私たちが止めるのも聞かずに「自分は兵器だから」と言って」


 そう語るチャンポの言葉の中には、どこか寂しげなものが含まれていた。


「自分がいたら争いが起こるとか思ったんだろうね。私もお別れくらいしっかり言いたかった。いつの間にか、書置きを残していなくなってしまったんだから」


 そう言って、チャンポは目をつぶる。


「ばあちゃん。俺、ミヤたんを見つける。それで、空に行けるような乗り物を作ってばあちゃんとミヤたんと一緒に青い空を見るんだ!」


 未来に目を輝かせて少年はこぶしを握った。


 そう遠くない将来にこの世界で、過去に伝説になったロボットを見つけ、空へと行ける乗り物を作った少年の物語が語られるようになる。








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