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石川 周

 周は帰り道でひとり今日のことを考えていた。


「ちくしょう……」


 京一のやり方に周は納得していなかった。明仁にあそこまでする必要はないと思っていた。そして、淳の行動も理解できなかった。


 しかし、そんな彼らを止めようとするわけでもなく、ただ行動を共にしている自分が、卑怯であり情けない人間であることを、周は十分に承知していた。


 京一に一対一での喧嘩で負けたあの日、周は京一の仲間になることを約束した。だからいつも京一と行動を共にしてきた。


 しかし、幼馴染である明仁に手を出すのは、周はどうしても嫌だった。当然最初は断った。すると、京一は突然周の家族の話をし始めた。初めは京一が何を話しているのか全く分からなかった。


 そしてそれが遠回しな脅し文句だと分かったとき、周は小学生の京一に何が出来るわけでもないと、完全に信じなかった。寧ろ心の中で笑おうとした。


 ただ、京一の眼を見ていると、何故か笑い声は周の口から上手く外へ出ていかなかった。


 京一には得体の知れない怖さがあったのだ。


 それでも、周は自分のやっていることが間違っていると分かっていた。分かっていながら京一の命令に従って、一緒に明仁をいじめている自分に心底嫌気がしていた。


「ちくしょう!」


 周は家の玄関のドアを拳で思い切り殴った。


「あれ?」


 ドアノブに手を伸ばした時、異変に気が付いた。内側から鍵が掛かっている。

周は不思議に思いながら、ポケットから鍵を取り出すと、鍵を開けて家の中へ入った。


 玄関の時計は、一時半を指していた。


 今日の学校は午前中の終業式だけのなのだから、既に咲子が帰宅しているはずの時間だった。


「サキー」


 周は妹の名前を呼びながら、自分と咲子の部屋を順に確認していく。彼女の勉強机の上にランドセルは置かれていない。


 家の中を隈なく探す。しかし、居間にもトイレにも何処にも咲子はいなかった。


 何か伝言があれば、冷蔵庫のドアに貼りつけてあるメッセージボードに書き込むように周はいつも咲子に言っていたが、ボードには今週の予定以外は何も書かれていなかった。


 ランドセルもなく、メッセージもない、つまり咲子はまだ帰宅していないということになる、そう結論付けた周の額から嫌な汗が流れ落ちる。そしてもう一度時計に目を遣る。


 一時三十四分。


 周は咲子が自分を学校で待っている可能性を考えてみた。しかし、すぐにその可能性を捨てた。


 今朝家を出る時、今日は自分は友だちと用事があるから咲子とは一緒には帰れないと、はっきりと伝えたことを思い出したからだ。


「ちくしょう……」


 周はランドセルを自分の部屋の中へ放り投げると、玄関に鍵を掛け家を飛び出した。


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