第四章 初めてのお茶会と、お揃いのドレス
第17話 お茶会のお知らせ
その話を聞いたのは、朝食のあとだった。
「エレノア、次のお休みにお茶会に出ましょう」
公爵夫人の声は、いつもと変わらず穏やかだったが、
それは“決定事項”としての響きを持っていた。
エレノア様は、一瞬だけ動きを止めた。
「……はい」
返事は落ち着いている。
けれど、私はその小さな指先が、きゅっと握られたのを見逃さなかった。
これまでエレノア様は、何度かお茶会に顔を出している。
だがそれは、ほんの短時間。
母の隣で静かに座り、笑顔を保ち、無難にやり過ごすだけの場だった。
「ドレスは、新しく誂えましょうね」
「……いつものので、いいです」
即座に返された言葉に、公爵夫人は一瞬だけ目を伏せた。
――興味がないのではない。
期待しないようにしているのだ。
私は、胸の奥が少しだけ痛んだ。
第18話 選ばれたのは、うさぎだった
その日の午後。
ぬいぐるみ部屋で、エレノア様はいつものように並べられた子たちを見渡していた。
くま、ねこ、犬、鳥。
そして、一番奥に置かれた、あの白いうさぎ。
「……これ」
エレノア様は、そっとうさぎを抱き上げた。
「この子と……おそろいが、いい」
私は、一瞬、言葉を失った。
それは――
エレノア様が、初めて口にした「自分の望み」だった。
「……いいですね」
そう答えると、エレノア様は少しだけ、ほっとしたような顔をした。
うさぎのドレスは、私が最初にこの屋敷で仕立てたもの。
白を基調に、淡い光を含んだ布。
裾に小さな刺繍を施した、静かで優しい一着。
私は、そのドレスをそっと撫でた。
「これを、エレノア様用に仕立て直しましょう」
第19話 端切れから、宝石へ
最初に作ったうさぎのドレスは、端切れだった。
だからこそ、形と線にすべてを込めた一着。
けれど今回は違う。
公爵家の衣装室には、最高級の布が揃っている。
光を柔らかく反射する絹。
透け感のある薄布。
細やかな輝きを放つビーズ。
「同じ形でも、印象は変わります」
私は布を重ね、色を合わせ、
うさぎのドレスを“基準”として再構築していく。
子どもの体を邪魔しないよう、軽さを最優先に。
けれど、社交の場にふさわしい品格も失わない。
裾には、控えめな光を散らす装飾を。
まるで――
光を内包した宝石のようだった。
完成したドレスを見て、公爵夫人は息を呑んだ。
「……名前を、つけましょう」
「名前、ですか?」
「ええ。このドレスには、それだけの価値がある」
私は少し考えてから、答えた。
「アイリスクォーツ、はいかがでしょう」
虹色の光を宿す、水晶の名。
公爵夫人は、ゆっくりと頷いた。
第20話 初めての「着たい」
ドレスを身にまとったエレノア様は、鏡の前で立ち尽くしていた。
白を基調とした、柔らかな光のドレス。
派手ではない。
けれど、どこまでも品がある。
「……どう?」
不安そうに尋ねる声。
「とても、お似合いです」
そう言うと、エレノア様は――
小さく、でも確かに、笑った。
「……これ、好き」
その一言に、公爵夫人は目を潤ませた。
これまで“与えられる服”しか着てこなかった子が、
初めて“選んだ服”。
それは、ドレス以上の意味を持っていた。
うさぎにも、同じドレスを着せる。
二つ並べると、
まるで物語の中の姉妹のようだった。
第21話 お茶会と、始まりの予感
お茶会当日。
エレノア様は、うさぎを腕に抱き、堂々と会場に入った。
「まあ……素敵なドレス」
「どちらの仕立て?」
囁きが、波紋のように広がっていく。
エレノア様は、母の隣で静かに座りながら、
それでも以前よりずっと、表情が柔らかかった。
時折、うさぎに視線を落とし、
小さく微笑む。
公爵夫人は、その姿を誇らしげに見つめていた。
――始まった。
このドレスが、
この子の世界を、
そして私自身の運命を変えていく。
まだ誰も知らない、
ジュエルシリーズの、最初の一着として。




