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追い出された貧乏男爵令嬢、ぬいぐるみ職人として公爵家に拾われました 〜宝石の名を持つドレスは精霊と辺境を救います〜  作者: かも@ろん


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第三章 ぬいぐるみと、ほどけていく心

第11話 くまのベストと、静かな時間


 最初に服を作ったのは、茶色のくまだった。


 少し大きめで、片耳の先が擦り切れている。

 エレノア様が一番長く持っているぬいぐるみだという。


「この子は……くまさん」


 それだけ言って、エレノア様はくまを差し出した。


 私は布を選ぶ。

 起毛の少ない、やわらかな茶色。

 動かしやすいよう、前開きのベストにすることにした。


 縫い目は内側に。

 角はすべて丸く落とす。


 子どもが抱いて眠っても、痛くならないように。


「できました」


 くまに着せると、少し背筋が伸びたように見えた。


「……あったかそう」


 エレノア様は、くまを胸に抱いて、ぽつりとそう言った。


 その日は、それ以上言葉はなかったけれど。

 くまは一晩中、エレノア様の腕の中にあったらしい。


第12話 ねこのワンピースと、小さなこだわり


 次は、白と灰色のねこ。


 耳がぴんと立ち、どこか気位が高そうな顔をしている。


「この子は……きれいなのが、いい」


 エレノア様が、少しだけ考えてから言った。


「じゃあ、動くと揺れるのはどうですか?」


「……うん」


 私は薄手の布を重ね、軽いワンピースを仕立てた。

 裾には細いレースを一周。


 派手ではないけれど、上品に。


 完成したねこを見て、エレノア様はしばらく黙っていた。


「……この子、えらそう」


「元からですね」


 そう言うと、エレノア様は――くすりと笑った。


 初めて聞く、声を出した笑いだった。


第13話 犬のマントと、初めてのわがまま


 三体目は、垂れ耳の犬。


 よく見ると、ところどころ縫い直された跡がある。


「……昔、壊れたの」


「大事にしてたんですね」


 犬には、マントを作ることにした。

 走り回っても邪魔にならないよう、留め具は柔らかく。


 色は、空のような青。


「……もう少し、長く」


 エレノア様が、初めて注文をつけた。


「ここまで、かな」


 指で示すと、こくりと頷く。


 それは、小さなわがままだった。


 私は嬉しくなって、その通りに仕上げた。


「……ありがとう」


 犬を抱きしめるエレノア様の声は、前よりずっと柔らかかった。


第14話 公爵夫人の視点――針がほどくもの


(※公爵夫人視点)


 私は、扉の外から、そっと様子を見ていた。


 娘が、笑っている。


 それも、作り物ではない、年相応の顔で。


 この子は、賢すぎた。

 周囲の期待を察し、求められる「公爵令嬢」を演じてきた。


 だからこそ、

 感情を抑える癖がついてしまった。


 けれど、あの子――リリアーヌが来てから、少しずつ変わっている。


 命令しない。

 押しつけない。

 ただ、針と糸で、居場所を作る。


「……見つけてよかった」


 あの夜、男爵家で感じた違和感は、間違っていなかった。


 この子は、娘にとって必要な存在だ。


 ――そしてきっと。


 公爵家にとっても。


第15話 鳥のリボンと、語られた言葉


 次は、小さな鳥のぬいぐるみだった。


 色あせて、少し羽が歪んでいる。


「……しゃべらないの」


 エレノア様が言った。


「でも、見てる」


 私は、首元に細いリボンを結んだ。

 邪魔にならない、ささやかな飾り。


「……見てるなら」


 エレノア様は、鳥を見つめてから、ぽつりと続けた。


「……さびしくないかな」


 私は、針を止めた。


「……さびしかったら、そばにいてあげればいいんです」


 エレノア様は、しばらく考えてから、鳥を胸に抱いた。


「……うん」


 その日、エレノア様は初めて、自分から話をした。


第16話 増えていく服と、近づく距離


 ぬいぐるみの服は、少しずつ増えていった。


 それぞれ違う形、違う色、違う役割。


 エレノア様は、毎日選ぶ。


「今日は……この子」


 その声は、迷いがなくなってきていた。


 私は、それを受け取り、布を広げる。


 針と糸が進むたび、

 この子の心も、少しずつほどけていく。


 気づけば、エレノア様は私の隣に座り、

 黙って縫う手元を見ているようになっていた。


 ――もう、無理に大人になる必要はない。


 私は、そう願いながら、今日も縫う。

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