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追い出された貧乏男爵令嬢、ぬいぐるみ職人として公爵家に拾われました 〜宝石の名を持つドレスは精霊と辺境を救います〜  作者: かも@ろん


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第二章 公爵家での新しい居場所

第6話 公爵家の北向きの部屋


 公爵家の屋敷は、男爵家とは比べものにならないほど広く、美しかった。


 けれど、私に与えられた部屋は、決して豪華なものではない。

 北向きで、日当たりは控えめ。家具も必要最低限。


「こちらが、あなたのお部屋になります」


 案内してくれたメイドは、にこやかにそう言った。


 ――それで、十分だった。


 鍵のかかる扉。

 自分だけの机。

 誰にも追い立てられない時間。


 それだけで、胸がいっぱいになる。


「……ありがとうございます」


 荷物は小さな鞄ひとつ。

 中に入っているのは、着替えと、針と糸、それからあのうさぎ。


 私は机の上に布を広げた。


 この屋敷で、私は何を求められているのか。

 それは、まだはっきりとはわからない。


 けれど――。


「ここなら、縫える」


 静かな部屋で、針を持つ指は、自然と落ち着いていた。


第7話 ぬいぐるみ部屋の主


 公爵令嬢――エレノア様は、四歳。


 年齢に似合わず、落ち着いた表情をしている子だった。

 感情をあまり表に出さず、必要以上にわがままも言わない。


「この子は、空気を読めすぎるのです」


 公爵夫人は、そう言って少しだけ眉を下げた。


 エレノア様の部屋には、たくさんのぬいぐるみがあった。

 熊、猫、犬、鳥。

 どれも大切にされているのがわかる。


 けれど――どれも、裸だった。


「……お洋服、作りましょうか?」


 私がそう言うと、エレノア様は一瞬だけ、目を見開いた。


「……いいの?」


 その声は、とても小さかった。


 私は頷き、布を選ぶ。

 肌触りの良い綿。

 色は、それぞれのぬいぐるみに合わせて。


 くまには、落ち着いた茶色のベスト。

 ねこには、軽やかなワンピース。

 縫い目は表に出さず、動かしやすいよう余裕を持たせる。


「……かわいい」


 エレノア様は、そう言って、ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。


 その表情は、年相応の、子どもの顔だった。


第8話 針と糸の時間


 公爵家での私の一日は、穏やかだった。


 朝、エレノア様の身支度を手伝い、

 午前中は一緒にぬいぐるみで遊ぶ。


 午後は、お茶の時間。


 エレノア様は、紅茶を飲みながら、私が縫う手元をじっと見ている。


「どうして、そんなにきれいなの?」


「……布の声を聞くんです」


 そう答えると、エレノア様は不思議そうに首を傾げた。


 私は、前世で学んだことを思い出しながら縫う。

 色の組み合わせ。

 動いたときのライン。


 ぬいぐるみ用のドレスは、小さいからこそ、誤魔化しがきかない。


 だからこそ、楽しい。


「次は、どれにする?」


「……うさぎさん」


 あの日、雑踏で直した、あのうさぎ。


 私は微笑み、白い布を取り出した。


第9話 最初のドレス


 うさぎのためのドレスは、特別にしたかった。


 白を基調に、淡い光を含んだ布。

 裾には、小さな刺繍。


 動かすたびに、ふわりと揺れるように。


 完成したうさぎを差し出すと、

 エレノア様は、しばらく言葉を失ったまま見つめていた。


「……これ」


 ぎゅっと、抱きしめる。


「だいすき」


 その一言に、胸の奥が熱くなる。


 その様子を、少し離れた場所から見ていた公爵夫人は、静かに息を吐いた。


「……この子に、こんな顔をさせたのは、初めてです」


 私は、何も言えなかった。


 ただ、針と糸を持つ手が、少し震えた。


第10話 必要とされる場所


 その日の夜。


 公爵夫人は、私を呼び止めた。


「あなたに、お願いがあります」


 そう前置きしてから、穏やかな声で続ける。


「この子のそばに、いてほしいのです。衣食住は、こちらで用意します。その代わり――」


 夫人は、微笑んだ。


「空いた時間は、好きなだけ手芸をなさい」


 私は、深く頭を下げた。


「……はい」


 その瞬間、はっきりと感じた。


 ここが、

 私の居場所なのだと。


 針と糸が、

 私をここへ導いてくれたのだと。

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