【エピローグ】
夜。
王城の執務室は、静まり返っていた。
燭台の火が小さく揺れる。
机の上には、整然と綴じられた報告書。
表紙には、たった一言。
「成功」
デルガはそれを見つめている。
断罪は成立した。
論理は破綻なく通り、
王子は満足し、
反乱も起きず、
秩序は保たれた。
完璧な遂行。
職人としての仕事は、非の打ち所がない。
だが。
(燃えなかった)
胸の奥に残るのは、熱ではない。
空虚。
かつて断罪式の夜には、
城下からざわめきが届いた。
興奮した議論。
怒りと涙。
翌日も続く余韻。
祭りのあとに似た、疲労と高揚。
今日は違う。
窓を開ける。
広場は静かだ。
灯りもまばら。
笑い声もない。
人々はすでに日常へ戻っている。
断罪は、消費された。
記憶に残る炎にならず、
ただ理解され、
納得され、
処理された。
デルガは椅子にもたれる。
(制度疲労か)
長く続いた儀式。
婚約破棄。
悪役令嬢。
断罪。
歓声。
同じ構図を、何度も何度も繰り返してきた。
人は慣れる。
慣れは熱を奪う。
だが——
別の可能性が、脳裏をよぎる。
(人々が成長したのか)
かつては単純な善悪で熱狂できた。
だが今日の群衆は、
善の裏側を理解した。
理屈を受け止めた。
歓声よりも、思考を選んだ。
もしそうなら。
断罪という装置は、
時代に追いついていないのではないか。
デルガは目を閉じる。
自分は制度を守った。
だが。
制度は、本当に守るべきものか。
燭台の火が揺れる。
報告書の「成功」という文字が、
どこか薄く見える。
彼は静かに呟く。
「……次は、燃えるのか」
答えはない。
夜は深い。
広場は静かだ。
断罪は成立した。
だが、燃えなかった。
それが、
彼の胸に残る、
何より確かな事実だった。
――第2話 終了。




